伊豆・三津浜(みとはま) 松濤館
芸術家に愛された三津浜の富士を愛で、美食ともてなしに癒やされる宿
伊豆半島の西側の付け根に位置する沼津。古くは東海道の宿場町としてにぎわい、人や物が集まる交流拠点として発展してきた。温暖な気候に加え、駿河湾や富士山を望む風光明媚な地には、皇室の沼津御用邸を始め政財界の要人が別荘を構え、かつては「海のある軽井沢」と呼ばれた。
 駿河湾のさらに奥、内浦の三津浜に位置する明治44年創業の老舗旅館「松濤館」もそんな芸術家たちに愛されてきた宿。中でも富士山をテーマに名作を残した洋画家・梅原龍三郎は、宿に数カ月逗留し、三津浜からの富士の姿を描いた。芸術の薫りは館内に一歩足を踏み入れた途端に感じることができる。百年の時を越えて多くの旅人を魅了し続けてきた天下の絶景を、居ながらに目の前で楽しむことができるのが、この宿である。
「松濤館」は三津浜の海にせり出すように立つ立地のため、客室すべてがオーシャンビューとなっている。海面が美しく輝く昼、茜色の空が海を染め、やがて漆黒の闇へ移ろう夕、漁火の明かりが漂う夜、清々しい太陽の光に包まれる朝。そして、すべての時のなかで寄り添う名峰……。窓をキャンバスに見立て、饒舌に語りかける自然の姿と向き合いたい。
 全24室の客室は、半数が露天風呂付き。海と富士山を独り占めしながらの湯浴みも格別である。他に和洋室もあり、どの部屋も落ち着いた数寄屋風の造りで、床の間の掛け軸や調度品に趣向が凝らされ、日本旅館の粋を感じる。またペット専用の宿泊施設も用意され、家族の一員であるペットを安心して預けられる。
 宿の最上階に位置する天然温泉「黄金の湯」。男女入れ替えの2カ所の浴場と貸切風呂がある。「富士の湯」は、開放的な檜の露天風呂を備えた大浴場で、雄大な三津の海と富士山が望める。「愛鷹の湯」は、岩の露天風呂があり、こちらも富士の姿を愉しむことができる。温泉は大仁温泉から運ばれ、泉質はナトリウム・カルシウム‐塩化物・硫酸塩泉で、肌に優しくよく温まる湯である。湯船で手足を伸ばし、絶景と湯浴みを堪能したい。女性にうれしい岩盤浴も用意され、温泉との相乗効果でデトックス効果も期待できる。
 宿の良し悪しを決める大きなポイントに料理がある。「松濤館」の夕食は吟味された新鮮な駿河湾の魚介類と地の野菜などを駆使した和風創作料理。客室か個室料亭でいただく。沼津名産の鯵や伊豆の味覚の代名詞・金目鯛や伊勢海老はもちろん、春は山菜や筍、貝類や御前崎のサワラなど、夏はウリ、トマト、南瓜などの鮮度抜群の地野菜、秋は松茸などの茸類と脂の乗ったタチウオなど、そして冬は磐田産のエビイモなどの根菜類とカニ、アンコウ。書き切れぬほどの四季折々の食材が、料理人の技と心と創意で、口福のひとときをもたらしてくれる。今西良一総料理長が目指すのは“宿屋の晩ごはん"。料亭の懐石料理とは異なる、旅の風情と寛ぎを感じることができる味わいである。
 日本人の心のよりどころ、世界文化遺産の富士山を愛で、夫婦で、家族で、そして3世代で、大切な人との大切な時を過ごすにふさわしい、日本のおもてなしが宿る場所。それが「松濤館」である。

●松濤館
静岡県沼津市内浦三津(みと)7
TEL:055-943-2311
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