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これに続けとばかり、最近は適価で鰻料理を出す店が、京都のあちこちに出現して、どの店もそこそこのにぎわいを見せている。

 昔からあった料理ながら、どこか縁遠く感じられていた鰻料理に目を付け、多くの客を引き付けることに成功したのは、きっと今後のビジネスモデルになると確信している。

 と同じく、コロナ禍になってから目立つようになったのは、一つの料理に特化した店である。例えばからあげ。小さな子供からお年寄りまで、絶大な人気を誇りながらも、それに特化した店はさほど多くなかった。もちろん専門店もあるにはあったが、どちらかと言えば、特定の地方に限られていて、よく知られた大分のものや、ザンギと呼ばれる北海道のものなど、ローカルグルメとしての印象が強いものだった。それらとは一線を画し、地方性を排して店の独自性を打ち出す。これまでにはなかった新しい流れだ。
 
 京都でもその流れに乗った、からあげ専門店が次々と名乗りを上げ、京都からあげブームの様相を呈し始めている。

 鰻、からあげに先行したのは餃子である。本コラムでも書いたように、京都では星付きフレンチが餃子専門店をオープンさせるなど、ちょっとした餃子ブームが続いている。鰻、からあげ、餃子。どれをとっても、全く目新しい料理ではないのだが、それを専門化し、価格帯やターゲット層を変え、新鮮さを演出することに成功している。フードビジネス業界はきっと、虎視眈々と二匹目のどじょうならぬ、二匹目の鰻を探しているに違いない。先刻承知の方も多いと思うが、この三つには、二つの共通点があって、それはおそらく、コロナ後、もしくはウィズコロナの時代にあって、外食産業が生き残るための必要条件なのだ。

 一つに、テイクアウトに向いているということ。鰻丼、からあげ、餃子はどれも調理済みのものを持ち帰って、家庭で温め直すだけでおいしく食べられる。食の宅配にも向いている。となれば、今後外食制限が繰り返されても影響を受けずに済む。もう一つは保存性。どれも冷凍保存が可能で、食材のロスを防げ、SDGsの流れにも乗れる。きちんと理にかなっているのだ。

 そう遠くない将来、再び外食業界に光が当たる日が来るのは間違いない。その日に向けての備えを怠らない。それは極めて大切なことなのだ。
柏井壽(かしわい・ひさし)
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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