何年か前から、我が家でも炊飯器ではなく、土鍋を使ってご飯を炊いてきたが、その火加減にはずいぶんと気を使い、タイマーをにらみながら、火力を調節し、最後に蒸らしあげるまで気を抜くことがなかった。土鍋ご飯というものは、たしかに手間が掛かるものだが、大失敗というものはほとんどない。おこげが出来すぎたり、柔らかすぎたりはするものの、どんなときでもおいしく食べられるものではあるが、放っておいていいものではない。それが土鍋ご飯だということは経験で知った。
火を点けてさえしまえば、あとはほったらかしておいてもいい。必ずおいしく炊き上がる。まさかそんなことが炊飯器以外で、と半信半疑ながら、試みてみたのが簡易釜飯である。
きっかけはあるテレビ番組だった。「釜-1ワングランプリ」と称して、視聴者からのレシピを再現し、その旨さを競うというコーナーで、とにかく米と食材を釜に入れて、火を点けるだけなのである。オーソドックスなレシピから、奇抜なレシピまで、どれもが炊き上がりは旨そうに見える。
ならば、と思って通販で3,000円ほどの簡易釜飯器を買って試してみた。気を配るのは水加減だけ。洗った米と食材を釜に放り込み、あとは固形燃料に火を点けて、炊き上がりを待つだけ、という極めてシンプルな調理。旅館の夕食などで、この青い固形燃料を使った鍋や焼き物などが出てくると、手抜き料理だと断じて、忌み嫌ってきたものだ。
それを使って、まさかこんな簡単に炊き込みご飯できてしまうとは。これが率直な感想である。一度火を点けてしまえば、やりたくても火力の調節などできようはずもない。ただただ放置するしかない。なのに、実においしく、しかも1合だけでも炊けてしまうのだから、一人ご飯には強力な助っ人だ。格安で手入れも簡単。しかもポータブル。もちろん完璧ではないものの、割烹店と同じような炊き込みご飯がいとも容易くできてしまう。
こうして、少しばかりではあっても、プロの味に近づけるものもあれば、到底まねできない料理があることも分かった。今さらかもしれないが、お造りというものは、プロとアマの差が歴然としている。どんなにいい包丁を使い、吟味した食材であっても、素人のそれと、プロが引いた刺身では、雲泥の差がある。お造りと、ただの切り身は、まったく別ものだったのだということも、自分で調理してみて、初めて分かったことである。
お造りともう一つ。椀ものもまた、プロの味にはまったく及ばないことを実感した。本コラムでも以前書いたように、かつおぶし削り器も使い、上等の利尻昆布をぜいたくに使っても、プロの味や香りには到底及ばない。割烹で味わうべきは椀ものだ、と言い続けてきたから、ある程度予想されたことではあったが、それでも、ここまでの差が出るとは思わなかった。
かくして、これから割烹店で食事をする際、心して味わうべきは、お造りと椀ものだ、と断ずるに至ったのである。
火を点けてさえしまえば、あとはほったらかしておいてもいい。必ずおいしく炊き上がる。まさかそんなことが炊飯器以外で、と半信半疑ながら、試みてみたのが簡易釜飯である。
きっかけはあるテレビ番組だった。「釜-1ワングランプリ」と称して、視聴者からのレシピを再現し、その旨さを競うというコーナーで、とにかく米と食材を釜に入れて、火を点けるだけなのである。オーソドックスなレシピから、奇抜なレシピまで、どれもが炊き上がりは旨そうに見える。
ならば、と思って通販で3,000円ほどの簡易釜飯器を買って試してみた。気を配るのは水加減だけ。洗った米と食材を釜に放り込み、あとは固形燃料に火を点けて、炊き上がりを待つだけ、という極めてシンプルな調理。旅館の夕食などで、この青い固形燃料を使った鍋や焼き物などが出てくると、手抜き料理だと断じて、忌み嫌ってきたものだ。
それを使って、まさかこんな簡単に炊き込みご飯できてしまうとは。これが率直な感想である。一度火を点けてしまえば、やりたくても火力の調節などできようはずもない。ただただ放置するしかない。なのに、実においしく、しかも1合だけでも炊けてしまうのだから、一人ご飯には強力な助っ人だ。格安で手入れも簡単。しかもポータブル。もちろん完璧ではないものの、割烹店と同じような炊き込みご飯がいとも容易くできてしまう。
こうして、少しばかりではあっても、プロの味に近づけるものもあれば、到底まねできない料理があることも分かった。今さらかもしれないが、お造りというものは、プロとアマの差が歴然としている。どんなにいい包丁を使い、吟味した食材であっても、素人のそれと、プロが引いた刺身では、雲泥の差がある。お造りと、ただの切り身は、まったく別ものだったのだということも、自分で調理してみて、初めて分かったことである。
お造りともう一つ。椀ものもまた、プロの味にはまったく及ばないことを実感した。本コラムでも以前書いたように、かつおぶし削り器も使い、上等の利尻昆布をぜいたくに使っても、プロの味や香りには到底及ばない。割烹で味わうべきは椀ものだ、と言い続けてきたから、ある程度予想されたことではあったが、それでも、ここまでの差が出るとは思わなかった。
かくして、これから割烹店で食事をする際、心して味わうべきは、お造りと椀ものだ、と断ずるに至ったのである。

柏井壽(かしわい・ひさし)
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。