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今やウェブ上には、グルメブログと呼ばれるサイトがあふれかえっている。一年に何百軒食べ歩いているだの、これまでに食べたラーメンは何千杯だとか、多くは数自慢だが、その手のブロガーたちは、メディアに露出したくてウズウズしている。番組を作る側も、ブロガー側も、双方ともまさに、渡りに船なのだ。

 かくして、365日、毎食パンを食べているというブロガーが、とっておきのパン屋を紹介するという形で番組が放送されるに至る。

 視聴者にとっては、より専門的な知識を持っていそうなブロガーのほうが、有名タレントより信頼できるような気がして、さらには身近な存在に見えるからウケもいい。加えてこういうブロガーは有名になることが目的なので、高額なギャラを請求される恐れもなく、番組制作費を安くあげることもでき、一石二鳥にも三鳥にもなる。

 そんなグルメ番組を見ていると、俗に言う食レポには、一定のパターンができていることに気付く。実際に食べながらレポートするときも、食べずに紹介だけする場合でも、とにかく絶賛するのが必須とされているようで、かつ、それまでの経験と比較して褒めちぎるのも、お約束になっている。

 たとえばそれがハンバーグだったとしよう。

「見てください、この切り口。ナイフを入れると、肉汁があふれ出てきます。わたしはこれまで1000軒以上でハンバーグを食べてきましたが、こんなに肉汁が出てくるのを見たことがありません。そしてこのやわらかさ。歯茎だけでかみ切れてしまいます。近江牛をシェフ自らたたいてミンチにしていますから、味はもちろん折り紙付き。間違いなく、わたしの生涯ベストワンハンバーグです」

 とまぁ、こんな調子で、タレント顔負けのオーバーアクション付きで、食レポを披露する。一例としてハンバーグを挙げたが、ラーメンだろうが、カレーだろうが、ステーキだって、似たようなものだ。とにもかくにも、過去の経験を引き合いに出して褒めちぎる。これを食べないと一生後悔する、とまで視聴者に思わせようと、涙ぐましいまでの食レポを展開するのだ。

 はて、どこかでこういう場面を見たことがあるなと考えて、はたと思い当たったのが、テレビショッピングという番組だ。健康食品を始め、宝飾品や電化製品などを宣伝販売するのだが、たいていは懐かしいタレントが出てきて、その質や価格に驚いてみせる。あの手法とよく似ているのである。全盛期を過ぎたタレントには、なんとなく親近感を覚える。そしてそのタレントはテレビで見かける機会もほとんどないから、家電通を自称したとしても疑いようがなく、その言をつい信用してしまう。

 アマチュアのグルメブロガーと存在感も似ていれば、そのセールストークもよく似ている。グルメブロガーが食レポをする番組は、ある意味でテレビショッピングなのだ。
柏井壽(かしわい・ひさし)
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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