もうひとつ。他の国ではあまり見かけないものに、おしぼりがある。割烹や料亭などの高級店なら、厚いタオル地のおしぼりが、ファミリーレストランや喫茶店なら、使い捨てのおしぼりが、席に着くと同時に出される。食事を始める前に手を拭って清めるのが、当たり前のように思っているが、海外ではめったに出合わない。
この日本独特の習慣とも言える、おしぼりというものは、実は社寺参拝の際の手水舎から派生したものではないかと推測している。神社やお寺で参拝する前に、まずは手水舎で手を洗い、口をすすぐのは、清めるという意味合いもあるが、疫病の蔓延を防ぐためだったのでもある。日本の多くの飲食店で、おしぼりと、水の入ったコップが最初に出てくるのは、手水舎に倣ったのではないだろうか。この習慣もまた、感染拡大を防ぐのに、有効な手立てとなっているはずだ。
さらに言えば、飲食店を始めとして、日本ほどお店にあるトイレが清潔に保たれている国はないのではないだろうか。アジアはもちろん、ヨーロッパの国々においても、お世辞にもきれいとは言い難いトイレが少なくない。習慣の違いがあるにせよ、これほどまでにウォシュレットが備わっている国は、日本以外にはないはずだ。加えて最近では、便座のふたが自動で開閉するようになってきたから、トイレの清潔度は他に類を見ないと言ってもいい。そしてそのトイレを、日本で「お手洗い」と呼ぶことにも注目したい。トイレは用を足すところであると同時に、手を洗うところでもある。手を洗ったあとにも抜かりはない。ペーパータオルや抗菌ハンドドライヤーが設置され、ハンカチを持たなくてもいいようにできている。
かくして、古よりの生活習慣も相まって、日本の飲食店ほど、感染予防に注力している国はない。しかるに営業自粛や時短を強いるのは、どうにも理不尽な気がするのである。
この日本独特の習慣とも言える、おしぼりというものは、実は社寺参拝の際の手水舎から派生したものではないかと推測している。神社やお寺で参拝する前に、まずは手水舎で手を洗い、口をすすぐのは、清めるという意味合いもあるが、疫病の蔓延を防ぐためだったのでもある。日本の多くの飲食店で、おしぼりと、水の入ったコップが最初に出てくるのは、手水舎に倣ったのではないだろうか。この習慣もまた、感染拡大を防ぐのに、有効な手立てとなっているはずだ。
さらに言えば、飲食店を始めとして、日本ほどお店にあるトイレが清潔に保たれている国はないのではないだろうか。アジアはもちろん、ヨーロッパの国々においても、お世辞にもきれいとは言い難いトイレが少なくない。習慣の違いがあるにせよ、これほどまでにウォシュレットが備わっている国は、日本以外にはないはずだ。加えて最近では、便座のふたが自動で開閉するようになってきたから、トイレの清潔度は他に類を見ないと言ってもいい。そしてそのトイレを、日本で「お手洗い」と呼ぶことにも注目したい。トイレは用を足すところであると同時に、手を洗うところでもある。手を洗ったあとにも抜かりはない。ペーパータオルや抗菌ハンドドライヤーが設置され、ハンカチを持たなくてもいいようにできている。
かくして、古よりの生活習慣も相まって、日本の飲食店ほど、感染予防に注力している国はない。しかるに営業自粛や時短を強いるのは、どうにも理不尽な気がするのである。

かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。