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食語の心 第88回
作家 柏井壽
新しい飲食店様式
 いつになったら終束するのか。そんな言葉すら、もう耳にしなくなった。
 コロナ禍が始まったばかりのころは、終束するまでの我慢、だと思っていたのは、どうやら見通しが甘かったようだ。三密を避けるだとか、マスクを着けるといった習慣からは、終束を機に解放されるだろうと誰もが思っていたのだが。急場しのぎでも、一時的な避難的処置でもなく、新しい、という言葉を使って、生活様式を変えることを余儀なくされてしまった。不要不急な外出を避け、仕事場に赴くことなく、自宅で仕事をする。学業も然り。直接向かい合って授業や講義を受ける機会が減り、ウェブを通して学ぶことが多くなった。
 生活が新しくなれば、当然のことながら、飲食店のあり様も新しくしなければならない。
新しい飲食店様式とでも呼ぶべきスタイルが始まった。もちろん、まだそれは確立されたものではなく、試行錯誤が始まったばかりではあるのだが。
 前回書いたように、多くの飲食店がテイクアウトや取り寄せを始めるようになったが、それは店の中だけの変化であって、あくまで急場しのぎ的な手法にしか過ぎない。短期決戦ならそれでしのげたかもしれないが、これだけの長期戦になってくると、飲食店はおのずと淘汰される。
 好むと好まざるにかかわらず、飲食店のスクラップ・アンド・ビルドはすでに始まっている。長い歴史を誇り、その名が広く世に知られていても、決して例外にはならない。いや、むしろ、そういう名店の方が、意外に早く白旗をあげたようにも見える。
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