

食語の心 第86 回
作家 柏井壽
この期に及んで
まさか、こんなことを3カ月も続けて書くことになるとは思ってもいなかった。短期間での収束を願っていたが、どうやらそれはかなわなかったようだ。
前も書いたように、このウイルス騒動によって飲食業界は大きな痛手をこうむっている。もちろんすべての業種も同様なのだが、「食語の心」と題していることもあり、飲食業界の苦境に絞って話を進める。
日本中に緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出を控えるように、との通達が出された。拘束力こそないものの、多くの国民がそれを守るようになった。
前回の本欄では、グルメたちが「応援」という名のもとに、名店にはせ参じ、それを拡散しようという動きがあると書いた。それならば地元でひっそりと営業している身近な店を訪ねる方がいい、とも書いた。
だが、事態はより深刻となり、飲食店の営業が制限されるようになり、様相が一変した。
営業を続けていいが、客席間を広く取るように、とか、夜遅くまで酒類を販売しないように、などの要請が出されると、自主的に店内での飲食を停止する店が続出した。三密空間を避ける意味もあって、外食そのものを自粛するムードが広がり、閑古鳥が鳴くようになると、人件費も重荷になり、いっそ営業を休止しようという流れが出てきた。
そんななかで、救世主として持てはやされるようになったのが、テイクアウトやお取り寄せだ。
何カ月も先まで予約が取れなかった店や、何時間も並ばなければ食べられなかった店も、こぞってテイクアウトやお取り寄せに新規参入し始めるようになった。
これに飛びついたのが、例によってグルメ自慢の人たちだ。
SNSやホームページで発信された店情報を、いち早く拡散することに努める。もちろん試食などしているヒマもないだろうから、「おいしいはず」と決め込んで情報を垂れ流す。
自宅にこもっている人たちに向けて、テイクアウト情報を流すのはいい。だがそれが遠く離れた名店だけ、となると苦言を呈さざるを得ない。
この苦境にあえいでいるのは名店だけではない。名もなき市井の店の方がむしろ苦しんでいるはずだ。それを知ってか知らずか、遠くの名店の持ち帰り料理をすすめるSNS投稿は日を追うごとに増えていく。
前も書いたように、このウイルス騒動によって飲食業界は大きな痛手をこうむっている。もちろんすべての業種も同様なのだが、「食語の心」と題していることもあり、飲食業界の苦境に絞って話を進める。
日本中に緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出を控えるように、との通達が出された。拘束力こそないものの、多くの国民がそれを守るようになった。
前回の本欄では、グルメたちが「応援」という名のもとに、名店にはせ参じ、それを拡散しようという動きがあると書いた。それならば地元でひっそりと営業している身近な店を訪ねる方がいい、とも書いた。
だが、事態はより深刻となり、飲食店の営業が制限されるようになり、様相が一変した。
営業を続けていいが、客席間を広く取るように、とか、夜遅くまで酒類を販売しないように、などの要請が出されると、自主的に店内での飲食を停止する店が続出した。三密空間を避ける意味もあって、外食そのものを自粛するムードが広がり、閑古鳥が鳴くようになると、人件費も重荷になり、いっそ営業を休止しようという流れが出てきた。
そんななかで、救世主として持てはやされるようになったのが、テイクアウトやお取り寄せだ。
何カ月も先まで予約が取れなかった店や、何時間も並ばなければ食べられなかった店も、こぞってテイクアウトやお取り寄せに新規参入し始めるようになった。
これに飛びついたのが、例によってグルメ自慢の人たちだ。
SNSやホームページで発信された店情報を、いち早く拡散することに努める。もちろん試食などしているヒマもないだろうから、「おいしいはず」と決め込んで情報を垂れ流す。
自宅にこもっている人たちに向けて、テイクアウト情報を流すのはいい。だがそれが遠く離れた名店だけ、となると苦言を呈さざるを得ない。
この苦境にあえいでいるのは名店だけではない。名もなき市井の店の方がむしろ苦しんでいるはずだ。それを知ってか知らずか、遠くの名店の持ち帰り料理をすすめるSNS投稿は日を追うごとに増えていく。