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「食べに来ていただくのは、本当にありがたいことなのですが、応援しに来ました! って言われると、何だか複雑な気持ちになるんです。食べたいから来てくださったんじゃないのか。へ理屈をこねているようで、申し訳ないんですが、店側としては、ついそう思っちゃうんですよ。応援だとか言わずに、普通に食べに来て欲しい、なんて言うとバチが当たりますかね」
 東日本大震災の後に、仙台のすし屋さんを訪れたときの、ご主人の言である。何となく分かる気がする。
 応援や救済というのは、気持ちとしては同調できるが、それを言葉にしてしまうと押し付けがましくなってしまうので、使わない方がいい。
 このときそう思ったので、以来ずっとそのスタンスを通している。
 それは今回のウイルス禍でも同じで、積極的に外食を重ねているが、決して応援というような恩着せがましい言葉は使わない。
 おいしいものを食べに来ました。そう伝えるだけで、十分心は通じるものだと思っている。
 前回も書いたが、地元客を大切にして、地道な商いを続けてきた店は、さざ波程度でしかないが、インバウンドや遠方からの富裕層に過度に頼ってきた店は、大波をかぶっている。
 そしてその対応も興味深い。地道な店は普段通り、泰然自若としているが、派手な商いをしてきた店は慌てふためいている。
 急にSNSで発信し出したり、HPで窮状を訴えたりしている。あるいは突然メールが届いたりもしている。
 繁盛しているときは音沙汰なしだったのが、手のひらを返すようにもみ手されても、残念ながら気持ちは動かない。何事も常日頃の行いが大切なのである。
柏井壽(かしわい・ひさし)
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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