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この料理には、こんな器を使い、こんなふうに盛り付けよう。そう思い始めたら止まらない。なじみの器屋から骨こっ董とう商、美術商にまで足を運び、ぴたりとはまる器を探す。
 そうして選ばれた器で出される料理と、高価だから、有名作家の器だから、という理由だけで買い求めた器で出される料理には、歴然たる差が出るものだ。
 それはどこか食材にも通じるものがあって、ブランド食材に頼り切っていると、自分の目や舌よりも、ネームバリューを優先してしまうのと同じ結果を生むことになる。
 器遣いを見ればおのずとその料理の度量もはかれる。本当に使いたい
器、主人が好きな器を使う店こそが、
通い詰めたくなる店なのだ。そのこと
を最近改めて感じた。
 器数寄の間では知られた存在だが、とりわけ有名というわけではない陶芸家に、加藤静允(きよのぶ)という人がいる。本職は小児科医だったが、リタイアされて今は京都隠棲。
 たまたま亡き岳父の友人だったことから、結婚祝いや長女誕生祝いにと、折に触れ器をいただき、今も日常に愛用しているのが、20年ほど前に白洲正子が加藤静允のファンだということを知り、少しばかり驚いた。
 初期伊万里の写しが得意で、ホンモノと見まがうほどの作品だが、決して贋作を作ろうというのではなく、自家薬籠中の物として、愛すべき器を作り続けておられる。
 そして最近気付いたのは、僕の行きつけの店や宿では、なべて加藤静允の器を使っているということだ。
 今、京都の和食店で一番のお気に入り「燕en」しかり。京都で一番好きなと言ってもいい鮨すし屋や「かわの」。京都一どころか、日本一の旅館「俵屋」。これらの店や宿で食事をすると、たいていひとつかふたつ、加藤静允の器が出てくるのである。その共通点に思い至ったのは、つい最近である。
 そしてもう一軒。伊豆修善寺の名宿「あさば」でも、しばしばこの加藤静允の器が出てくる。
 もちろん偶然なのだが、それはしかし必然なのかもしれないと思う。
 数寄どうしに通じるものが、引き合わせる。数寄とはそうしたものだ。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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