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たしかに一部の割烹店は人気沸騰、半年先や1年先まで予約が取れない有り様だが、ふつうに京都に住んでいる者には、まったくもって無関係。その手の人気割烹に足を運んだ都人はごくわずかだろう。
 日本酒しかり。京都では、
「乾杯は日本酒でしとぉくれやす」を合言葉にした〈日本酒乾杯条例〉なるものが5年前に施行された。
 日本酒普及を目指したものだが、京都では日本酒以外で乾杯しないのかといえば、まったくそんなことはなくて、たいていはビールか、ちょっと改まった席ならシャンパーニュである。
 ブームは作られるものだということ。実態とは必ずしも一致しないということ。旅をしてはじめて分かることなのだ。
 そしてもうひとつ。気になっていたのはラーメンだ。
 パリではフランス人がラーメン店に行列を作っている。そう聞いて、にわかには信じられなかった。フランス人とラーメンがどうしても結びつかなかったのである。
 こちらのほうは、すぐに答えが出た。本当のことだったのだ。
 ホテルコンシェルジュに聞くまでもなかった。パリの中心地には何軒ものラーメン店があり、昼時ともなれば、どの店にも行列ができていた。
 40年前に訪れたときにも、ラーメンらしきものはたしかにあった。だがそれは、インスタントラーメンの足元にすら及ばない代物で、麺は伸びきっていて、スープはとことん冷めていた。日本のラーメンとは別ものだった。
 それが今回は、さして日本と変わらない様子だったのに驚くしかなかった。
 豚骨こってり系やら、魚介あっさり系など、それぞれのスープを売りにするラーメン店が点在し、しっかりファンが付いているようなのだ。ためしにと入ってみたのはサッポロラーメン系のお店。満席の店内はアジア人は1割程度で、ほとんどは地元のフランス人のようだった。
 常連らしき客は、日本人スタッフと軽口をたたき合い、慣れた様子で音も立ててラーメンをすすっている。箸使いもなかなかのものだ。
 日本に比べて割高なことを除けば、札幌で食べるそれと比べて、ほとんど遜色はなかった。まさかパリでサッポロラーメンを美味しく食べるなど思ってもみなかった。
 ふたつ目の噂(うわさ)は本当だったのだ。
 笛吹けども民は踊らず。大衆食の強さも肌で感じたフランス旅だった。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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