
食語の心 第55回
作家 柏井壽

あふれる店情報
インターネットの急速な発達は、食に限らず、世の中に情報をあふれ返らせる結果を生んだ。
食の口コミサイトを筆頭に、個人のグルメブロガー、食雑誌や女性誌のサイト、さらにはSNSに至るまで、日本中の飲食店情報は、全て網羅され尽くしていると言っても過言ではない。
とりわけ口コミサイトの広がりはとどまることを知らないかのように、増殖し続けている。
そこには88万軒もの飲食店が掲載され、その口コミ総数は2千万件を超えるというのだから、ただただ驚くばかりだ。
どこそこの店で、かくかくしかじかの料理を食べた。ただそれだけのことを書きたい、という人がこれほど多いということにまず驚く。
読んだ本のこと、観(み)た映画のこと、聴いた音楽のことを書きたいという人が、果たしてどれほどいるだろうか。比べるまでもないだろう。
「読みログ」や「観るログ」「聴くログ」などがあったとしても、極めて限られた人たちだけのもので終わってしまうに違いない。
自らの存在感をアピールするのに、手軽で効果的なアイテムが、食の口コミサイト。それだけにその内容はまさに玉石混交。中にはウソ八百に近いものもある。
九州を代表する都市の町はずれに、小さな鶏料理屋があって、なじみというほどでもないが、時折無性に食べたくなって、しばしばのれんをくぐる。
仮にK屋としておこうか。K屋はその在り処(か)が分かりづらいこともあって、ほとんどが常連客で、それもほぼ全てがご近所さんという店。
どこで聞きつけたのか、食通で知られるタレントがK屋を訪れ、その鶏料理を雑誌で絶賛したことから話は始まる。
食通タレント氏は仁義を守って、店の名も在り処も明かさなかったが、きっと血眼になって探し当てたのだろう。とあるグルメブロガーが行ったこともない店のことを書きたいのだろうか。
僕にはよく分からないのだが、心理学的にはよく知られたことなのだそうで、要は誰かとつながっていたいという願望がそうさせるようだ。つまりは口コミウェブサイトも、グルメブログも、どこまでが真実かどうかは疑ってかからないとダメだということ。
では評価点数はどうだろう。本連載でも繰り返し書いているが、どうにもアヤシイ。くだんの口コミサイトでは5点満点で評価がなされている。最高得点を得ているのは、六本木の和食店。なんと4・9点という高得点をたたき出している。
完全紹介制、夜は二人以上で、最低価格が3万円、という高いハードルの店にもかかわらず、口コミの数は150を超えている。その平均値をとってもこの数字なのだから、ほぼ全員が満点近い点数を付けたことになる。
食の口コミサイトを筆頭に、個人のグルメブロガー、食雑誌や女性誌のサイト、さらにはSNSに至るまで、日本中の飲食店情報は、全て網羅され尽くしていると言っても過言ではない。
とりわけ口コミサイトの広がりはとどまることを知らないかのように、増殖し続けている。
そこには88万軒もの飲食店が掲載され、その口コミ総数は2千万件を超えるというのだから、ただただ驚くばかりだ。
どこそこの店で、かくかくしかじかの料理を食べた。ただそれだけのことを書きたい、という人がこれほど多いということにまず驚く。
読んだ本のこと、観(み)た映画のこと、聴いた音楽のことを書きたいという人が、果たしてどれほどいるだろうか。比べるまでもないだろう。
「読みログ」や「観るログ」「聴くログ」などがあったとしても、極めて限られた人たちだけのもので終わってしまうに違いない。
自らの存在感をアピールするのに、手軽で効果的なアイテムが、食の口コミサイト。それだけにその内容はまさに玉石混交。中にはウソ八百に近いものもある。
九州を代表する都市の町はずれに、小さな鶏料理屋があって、なじみというほどでもないが、時折無性に食べたくなって、しばしばのれんをくぐる。
仮にK屋としておこうか。K屋はその在り処(か)が分かりづらいこともあって、ほとんどが常連客で、それもほぼ全てがご近所さんという店。
どこで聞きつけたのか、食通で知られるタレントがK屋を訪れ、その鶏料理を雑誌で絶賛したことから話は始まる。
食通タレント氏は仁義を守って、店の名も在り処も明かさなかったが、きっと血眼になって探し当てたのだろう。とあるグルメブロガーが行ったこともない店のことを書きたいのだろうか。
僕にはよく分からないのだが、心理学的にはよく知られたことなのだそうで、要は誰かとつながっていたいという願望がそうさせるようだ。つまりは口コミウェブサイトも、グルメブログも、どこまでが真実かどうかは疑ってかからないとダメだということ。
では評価点数はどうだろう。本連載でも繰り返し書いているが、どうにもアヤシイ。くだんの口コミサイトでは5点満点で評価がなされている。最高得点を得ているのは、六本木の和食店。なんと4・9点という高得点をたたき出している。
完全紹介制、夜は二人以上で、最低価格が3万円、という高いハードルの店にもかかわらず、口コミの数は150を超えている。その平均値をとってもこの数字なのだから、ほぼ全員が満点近い点数を付けたことになる。