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ここで少し内輪話をすると、最近はレストラン業界だけでなく、ホテル業界も有名ブロガーを重用しているそうだ。かつてニューオープンホテルの、オープニングレセプションといえば、著名なメディアに限られていたのが、最近ではブロガーを招待することも増えていると聞く。
 ―接待慣れしてないからでしょうか。招待宿泊を受けたブロガーさんは、舞い上がっちゃって、ベタ褒めしてくれるので、とても有り難いんです―
 だそうだ。
 結果、レストランもホテルも、口コミもどきのPR情報が、ネット上にあふれ返ることになる。
 困ったことに、そのカラクリに気付かない人たちは少なくないのだ。
 ―雑誌やテレビのメディア情報は信用しないが、ネットの口コミは信用する―
 有名グルメブロガーほど危うい存在はない。アマチュアのような顔をした、中途半端なプロだからである。
 関西では少々名の知れたグルメブロガーがいて、この人のセールスポイントは、一年に600軒食べ歩くサラリーマン。
 純粋無垢な人は、これを聞いて、凄い! と尊敬のまなざしを向けるが、普通に考えれば、「そんなバカな」となる。一日の休みもなく食べ歩いたとしても365軒。普通のビジネスマンが一年に600軒も食べ歩けるわけがない。明らかに業界の人だ。
 それが明るみに出た事件があって、過去に自分がメディアで紹介した店に、自らコンサルをする旨の案内状を送ったのである。
 これには鼻を白ませた飲食店オーナーも多くいたようだが、そんなことはつゆ知らぬ一般人の間では、今もって「ランチのカリスマ」的存在であり続けている。
 繰り返しになるが、口コミとは、人の口から口へ、何ものも介在せずに伝わってゆくことを表す言葉だ。だからこそ信用度が高いのであって、インターネットという、即時に世界に広がるツールが介在すれば、もはや口コミでも何でもない。ただのネット情報に過ぎないものだということを、再度確認しておきたい。
 多くは、口コミという名をかたったPR情報だと思ったほうがいい。それほどに、口コミサイトのレビューや、グルメブロガーの書き込みはあてにならない。
 ではいったい何を信用すればいいのか。雑誌やテレビの店紹介か。はたまた有名料理評論家の言か。次回はそのあたりを検証してみたい。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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