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ライターが書いていた通りに、写真とともに、絶賛するコメントをつづる。と、それを読んだ友人がうらやましがる。その輪はあっという間に広がり、いつの間にかすご腕の料理人という評価が定着する。
 多くから称賛されれば、誰でもうれしい。自信を持つ。放っておいても、客は次から次へとやってきて、そのほとんどすべての客が絶賛するのだから、自信満々になる。
 ここまではいい。だがいつしか自信は過信に、さらには傲慢へとつながってゆくのが世の常。
 かくして、あっという間にカリスマ料理人ができあがる。
 メディアというのは軽さが身上だから、新星カリスマ料理人を放っておくわけがない。何一つ検証しないまま、今話題のカリスマ料理人として紹介する。一つの雑誌、一つの局がやれば、必ず他も後追いするのも、今のメディアの悪(あ)しき特徴。
 一方でそれを見た一般消費者は、これほど多くのメディアで紹介されるのだから、よほどすごい料理を作るのだろうと確信する。
 こうしてできた予約の取れない店のカリスマシェフ。料理人としての地位を獲得した(と思い込んでいる)あとに狙うは文化人としての地位。
 その第一歩となるのがイベント出演だ。近年は地方自治体からメディア、イベント会社までが手を携えて、食イベントを開催する。容易に集客できて、確実に利益が計上できるからだが、京都などでは、毎週のように、どこかしらで食のイベントが開催されている。
 これらのイベントでスターシェフとして登場する料理人はたいてい同じ顔触れ。自分の店にいるよりも、イベントで料理を作ることのほうが多いのでは、と思ってしまうほど。
 その料理人を目当てに店に食べに行った客は、さぞや失望していることだろう。
 最近では異業種のシェフのコラボレーションという企画も流行しているようで、どうやらカリスマシェフたちは、この手のイベントがお気に入りのようだ。
 年に一度くらいのことならいいのだが、毎月のようにこういうイベントに出向くシェフ。本末転倒ではないだろうか。
 原点に立ち返って、本来の自分の料理に精進すべきなのだが、ひと度脚光を浴びてしまうと、なかなか地味な仕事に戻れないようだ。
 料理人のなすべき仕事は何か。いま一度考え直すべき時期にきている。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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