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では、なぜそれほど京都の割烹店は人気があるのか。それには幾つもの複合的な理由がある。
 その第一は「自慢のタネ」になるからである。
 まず京都という土地。ここに憧れを抱かぬ人は少ない。日本文化の中心地であり、世界中から羨せん望ぼうのまなざしで見つめられる京都。
 今に始まったことではない。
1000年以上も前から、京都は多くが憧れる地だった。その象徴とも言えるのが天下人たち。信長も、秀吉も、家康も、みんな京都を手中におさめんとして戦った。京都を我がものとすることは、すなわち国を掌中のものとしたと同じ。成功者の証しとされてきた。
 その京都で最も注目を浴びているのが和食。それを食べることはSNSなどを通じて、人に自慢できるアイテムだ。
 第二は、今の割烹はたやすいこと。料亭となるとハードルが高い。立ち居振る舞い、マナーに気を配らねばならない。そして昔ながらの割烹店に「おまかせ」というコースはなく、品書きを見ながら自分で料理を選ばねばならない。これにはある程度の経験と知識が必要となる。最初に何を頼むか。〆しめはどうするか。どのタイミングで、どの順番で注文すればいいか。
 そこへいくと、今の「おまかせ割烹」は知識も経験も不要。ただ席に着くだけでいい。順番に出される料理の写真を撮り、おいしい! を連発すればいいのだから。
 第三は、狭き門だからである。
 予約が取りづらければ、取りづらいほど人気を集めるのが、今のおまかせ割烹の最大の特徴。料理がおいしかろうが、そうでなかろうが、狭き門をくぐりぬけて、店に入れただけでも自慢のタネになる。
 かくして、京都のおまかせ割烹は自慢のタネの宝庫となった。人気が集中するのも当然であり、プラチナシートと化した席料の高騰も当たり前と言えば当たり前のこと。全て価格は需要と供給の関係で決まる。冒頭にそう書いたが、誤解されると困るので、付言しておくと、需要の多寡と、その質とは全く連関しない。
 上質のものの需要が少なく、粗悪なものであっても需要が多いことなど、世の中には幾らでもある。
 今のおまかせ割烹の全てが低質だとは言わないが、人気に質が追いついていない店は山ほどある。次回はその話をしよう。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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