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これを、わずか2000円の値上げ、とみるか、50%アップとみるか、意見の分かれるところだろう。
 もう一軒。「草喰なかひがし」と負けず劣らずの人気を誇り、予約の取りづらさは京都一とも言われる「祇園さゝ木」。14年前に紹介した際の夕食は1万3000円だったが、今は2万4000円以上となっている。こちらは2倍近い値上げ。それでも満席が続くのだから、それだけの価値を認められているに違いない。
 何しろ若手の料理人が開く割烹でさえ、昼は1万円を下ることはないし、夜ともなれば2万円は当たり前になりつつある。
 それでは、他の京都の食をもう少し比較検討してみよう。
 昨今の京都は、時ならぬうどんブームで、近年岡崎に店を開いたうどん屋は、開店から閉店まで、長い行列が絶えないことで知られるが、祇園切り通しに、古くから店を構え、花街御用達の「おかる」もその人気が衰えることはない。
 14年前、この店の“たぬきうどん"を紹介した。京都における“たぬき"は東京や大阪のそれと違って、“きつね"の餡あんかけバージョンをいう。刻み揚げと青ネギを載せたうどんに、とろりとした餡をかける。京都人の好物なのだが、当時の値段が770円。そして今も変わらずに、770円。「辻留」の“花見弁当"と同じく、14年の時を経ても同一価格なのである。
 あるいは近ごろ人気の精進料理はどうだろう。
 14年前に紹介したのは世界文化遺産に登録されている名刹天龍寺に暖簾を上げる「篩月(しげつ)」。ここでは予約不要で食べられる一汁五菜の“雪"コースを紹介した。当時は3000円。今も変わらず3000円だ。
 もう一つ。今や京都を語るうえで欠かすことのできない“京のぶぶ漬け伝説"。それを思う存分味わえる「丸太町十二段家」の“お茶漬け"は時分どきには行列ができるほどの人気だが、当時は1000円、今は1050円。これもほぼ据え置き価格と言っていいだろう。
 こうして比較検証してみると、十数年経っても、京都の食の価格はほとんど変わっていないのだ。唯一割烹店だけを除いては。
 では、なぜ割烹店だけが突出して値上げをしているのか。その理由はまた次号で。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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