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次に見るべきは料理写真。
 例えばランチなんかだと、ご飯と料理、汁物などがお盆に載せられて、セットで写っている。
 昔の店だとあり得なかったが、最近はしばしば見かける配置の誤り。お値打ちランチで人気の和食店。お盆の右奥に白いご飯、左上に汁椀(わん)、左手前にメーン料理の皿、右手前に
小鉢が二つ。こんなデタラメな配置で写っていれば、どんなに高評価であっても、行くべき店ではない。
 繰り返し述べているが、ご飯は必ず左に置かねばならない。日本においてこれは決め事である。西洋において右側にナイフ、左側にフォークが置かれるごとく、いかなる理由があろうとも、時代が変わっても、不変のルール。それを守れない料理屋で、真っ当な食事ができるはずがない。
 前回も少し触れたが、器遣いも必ず見ておきたい。
 華美な器を多用する店は、必要以上に料理をよく見せようとしていることは間違いない。凝りすぎた器、変形の器を使う店は、よく言えば独創的、ありていに言えば自己主張が強すぎる料理を出すに違いない。
 染付の藍ではなく、料理がまずそうに見える、今どきの青い器も手慣れた料理人は使わない。
 乱雑な盛り付けは論外。傷が付いていたり、欠けた器も問題外。
 もう一つ。季節の花や飾りなど、食べられないものを料理と一緒に盛り付ける店も要注意。少しくらいなら彩りになるが、それを大仕掛けにする店は、概して料理に自信がないことが多い。
 こうして、一枚の写真から分かることは決して少なくない。
 グルメブロガー、食の口コミサイト、SNSなどでは、文章やコメントより、はるかに雄弁に語るのが一葉の写真である。
 店の中の様子や、料理とそれに伴う器遣いを写真から読み解けることは分かった。しかし店の雰囲気や主人のもてなしまでは、写真では分からないだろう。そう思われるかもしれないが、実はそこまで分かってしまうのだ。
 店を貸し切りにして、客が持ち込んだシャンパンを一緒に飲みながら、料理を作る主人。
 常連客の求めに応じてか、ポーズを取りながら、客と一緒に写る主人。
 こういう写真を見ると、その店を敬して遠ざけることにしている。なぜかと言えば、常連客にこびる店ほど居心地が悪いものはないからだ。
 写真は語る。不思議なものだ。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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