しかしながら、それをアレンジしてさらにご飯との相性を追求した結果、見た目は似ているものの、その味はデミグラスソースとはまったく異なる、別もののソースを生み出すに至った。それがトンカツソースである。無論その起源には諸説あり、戦後に誕生した、比較的新しい調味料であることから、洋食が今の形を確立した後のものであることは間違いないのだが。
通称トンカツソースと呼ばれる濃厚ソースは、洋食をより身近な存在にした。その通称通り、トンカツにかければ、ご飯との相性はすこぶるよくなり、和食と言ってもいいのではないかと思えるほど、日本の食卓に浸透している。シェフのような洋食のプロでなくても、洋食をメニューに載せられるのは、卓上ソースのおかげである。
街場の食堂には、そのテーブル席に必ず醤油(しょうゆ)と並んでトンカツソースが置かれている。もしくはウスターソース。あるいはその両方。
デミグラスソースがフランスなら、ウスターソースの起源はイギリスにあり、商品化されたものはリーペリンソースが嚆矢(こうし)とされる。
デミグラスソースがプロにしか作れないに等しいソースなら、ウスターソースは既製品として、誰でも手軽に使えるソースであり、この二つが混在することによって、日本の洋食は守り続けられていると言っても過言ではない。
コートレット料理から派生したと言われるカツレツはきっと、天婦羅(てんぷら)からヒントを得たのだろう。たっぷりの油でからりと揚げ、ソースを付けて食べれば、これほどご飯に合うおかずは他にないと思わせる。
そして何より興味深いのは、食材によってソースを使い分けることだろう。
トンカツソースというくらいだから、トンカツには濃厚ソースがよく合うのだが、これがカキフライになると、断然ウスターソース。白身魚のフライも同じくだから、海鮮系には辛口のウスターソース、肉のカツには甘みが勝った濃厚ソースがよく合う。そして、どちらにも合うように作られたのが中濃ソース。出来過ぎた話ではある。
そしてこれらのソースとともに、洋食に欠かせないのは、ケチャップとマヨネーズ。
とりわけケチャップがなければチキンライスもオムライスも生まれなかったわけで、そういう意味では日本の洋食に対する貢献度は、計り知れなく高い。さらにケチャップは単独でソースとして成り立つことは存外知られていないが、行列必至の、京都の有名洋食店では、ハンバーグもトンカツも、ケチャップベースの赤いソースが人気なのである。次回はその京都の洋食話を。
通称トンカツソースと呼ばれる濃厚ソースは、洋食をより身近な存在にした。その通称通り、トンカツにかければ、ご飯との相性はすこぶるよくなり、和食と言ってもいいのではないかと思えるほど、日本の食卓に浸透している。シェフのような洋食のプロでなくても、洋食をメニューに載せられるのは、卓上ソースのおかげである。
街場の食堂には、そのテーブル席に必ず醤油(しょうゆ)と並んでトンカツソースが置かれている。もしくはウスターソース。あるいはその両方。
デミグラスソースがフランスなら、ウスターソースの起源はイギリスにあり、商品化されたものはリーペリンソースが嚆矢(こうし)とされる。
デミグラスソースがプロにしか作れないに等しいソースなら、ウスターソースは既製品として、誰でも手軽に使えるソースであり、この二つが混在することによって、日本の洋食は守り続けられていると言っても過言ではない。
コートレット料理から派生したと言われるカツレツはきっと、天婦羅(てんぷら)からヒントを得たのだろう。たっぷりの油でからりと揚げ、ソースを付けて食べれば、これほどご飯に合うおかずは他にないと思わせる。
そして何より興味深いのは、食材によってソースを使い分けることだろう。
トンカツソースというくらいだから、トンカツには濃厚ソースがよく合うのだが、これがカキフライになると、断然ウスターソース。白身魚のフライも同じくだから、海鮮系には辛口のウスターソース、肉のカツには甘みが勝った濃厚ソースがよく合う。そして、どちらにも合うように作られたのが中濃ソース。出来過ぎた話ではある。
そしてこれらのソースとともに、洋食に欠かせないのは、ケチャップとマヨネーズ。
とりわけケチャップがなければチキンライスもオムライスも生まれなかったわけで、そういう意味では日本の洋食に対する貢献度は、計り知れなく高い。さらにケチャップは単独でソースとして成り立つことは存外知られていないが、行列必至の、京都の有名洋食店では、ハンバーグもトンカツも、ケチャップベースの赤いソースが人気なのである。次回はその京都の洋食話を。

かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。