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淡路島産鱧の湯引き できたての柚子胡椒がけ
 

 フランス料理の本を読んだり、シェフの話を聞いたりすると、いつの間にか料理を複雑化しようとしている自分に気づく。
 日本料理の「進化」は引き算の先にあると知っていながら、脂の乗った魚を探したり、足し算をしようとしている。複雑で手の込んだ料理をしないと、取り残されるような気持ちになってくるからなのか。
 しかし、フレンチのシェフたちも、また私たちにインスパイアされ、料理を簡素化させよりシンプルな構成に変化していく傾向にある。「人」を軸にして「今」を反映させながら進化していく料理は、このままいつか国籍の壁をも乗り越えて、一つの方向に集約されていくのだろう。
 情報化社会に生きている我々は、所詮(しょせん)同じ情報を共有して少なからず影響を受け、同じ方向に向かってゆく。これは止められない「変化」なのかもしれない。が、私自身はやはり日本料理のアイデンティティーを貫きたいと思う。世界中の料理人が一つの方向に向かっていくなんて、ばからしいと思うのだ。
 各国の料理の個性、すなわち文化よりも料理人の「個」が重要視されていく時代に、私もまた期待しながらも不安を感じている。その不安を払拭(ふっしょく)するためには今の料理を「進化」ではなく「深化」させなければならないのだろう。去年の料理を変化させようとするのではなく、より良い料理に「深化」させようと努力しなければ、いつまでたっても本物の料理にたどり着けない。
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