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食語の心 第42回
作家 柏井壽







 
お茶について
日本にいながら、お茶をわざわざ、「日本茶」と言わなければならないのは、どうにも納得がいかない。
 とある京都の割烹(かっぽう)で、食事を終えた家人が女将(おかみ)に言った。
「お茶をいただけますか」
 女将が問い返す。
「お茶どすか? ウーロン茶になさいます?」
 無国籍居酒屋なら仕方ないが、祇園に店を構える、しごく真っ当な割烹で、この体たらくである。
 日本料理を出す店で、お茶と言えば日本茶に決まっている。夏場なら、あたたかいお茶か、冷たいお茶かを尋ねることはあったとしても、よりによって、なぜウーロン茶なのか。
 こんな僕の疑問は、とある料理屋の主人によって瞬時に解明された。
「どんなええお茶を使うてても、日本茶でお金は取れまへん。ウーロン茶なら有料にできますねん」
 なるほど、そういう理由だったのかと納得したが、どうにも腑(ふ)に落ちない。
 たしかに、日本の料理店でお茶を頼んで、それに対価を支払ったことは一度もないように記憶する。高級料亭から、ワンコインで食事ができる大衆食堂まで、お茶は無料で提供される。
 食堂のお茶であっても無論のこと原価は掛かっている。老舗料亭ともなれば、上等のお茶を使うだろうし、かなりの元手は掛かっているはずだが、それでも有料にしている店など聞いたことがない。不思議と言えば、これほど不思議なこともない。
 お茶とひと口に言っても、いろんな種類があり、京都の料亭や割烹などは、それを使い分ける。
 食事を始める前は上等の煎茶。食事が終わった後は、ほうじ茶などの番茶。原価も手間も掛かるが、もちろんこれは無料で供される。
 では、日本人は日本茶をタダで飲めるものと決め込んでいるのかといえば、まったくそうではなくて、ペットボトルに入ったお茶なら、進んでこれを買うのである。
おおむね500ミリリットル入りが150円ほど。一見すると安いように思えるが、実はガソリンより高いのである。
 たとえば食堂で、日本茶が有料だとすれば、きっと誰もそれを頼まないだろうと思う。たとえ一杯10円だったとしても、タダの水で済ませるに違いない。
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