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文・武田好史(数奇者)
数奇者であり、文筆家でもある、武田好史さんが、今年の初めに古書サロン「書肆・風流離」をオープン。彼が長年集めたもので彩られたサロンは、独特の雰囲気があり、心落ち着く空間になっている。
●リブレリ ブラリ 京都市左京区吉田二本松町4-3 白亞荘  営業日時 毎週金曜日の13:00 ~ 17:00

(中)喫茶ソワレ 戦後間もない1948(昭和23)年に創業した喫茶ソワレ。扉を開けると、幻想的なブルーの照明による独特な空間が広がる。創業者と懇意にしていた画家・東郷青児の作品が壁に掛けられている。開店の際に、東郷から女性をモチーフにした作品を中心に贈られたという。ソファやテーブルといったインテリアも、創業当時のまま。青い照明を取り入れているのは、女性をきれいに見せるからだという。昭和の雰囲気を色濃く残したしつらえの、“ソワレブルー”の世界にゆっくりと浸ってみたい。
(右)イノダコーヒ本店 1940(昭和15)年に創業した京都屈指の喫茶店。創業当時からのオリジナルブレンド「アラビアの真珠」は、自社焙煎の深煎りをネルドリップで抽出した深いコクと香り、酸味のバランスがいい味わい。池波正太郎らがエッセーにつづり、東映の京都撮影所があるため高倉健ら映画人もひいきにしたイノダコーヒ。そしてフォーク歌手の高田渡は「珈琲不演唱(コーヒーブルース)」で「三条堺町のイノダ」と歌った。店内に漂うかぐわしい香りは、今日でも昭和の文化と結びつく。
京都珈琲芳香懐古(きょうとのかんばしききっさかんよあななつかしや)
「真紅の薔薇(ばら)を一本、買うべきか、喫茶店で珈琲(コーヒー)を啜(すす)るべきか……?」を悩む一人の京大医学生がいた。
 頃は、1970年代初頭のこと。60~70年代の京都といえば、“喫茶店黄金時代"だ。
 趣向を凝らした暗い店内を流れる曲といえば、音質、音色と選曲の審美を高らかに誇るそんな店ぞろいと言えた。もちろんその音源は、レコード盤。名盤レコード・ジャケットが店内壁面を堂々と飾る。
 喫茶店店内を流れる音曲と琥珀(こはく)飲料からたちこめる薫香に酔いしれ、いつの日にか訪れるであろう異国の文化に思いを馳(は)せるのだ。
 その音曲とは主に「クラシック」「ジャズ」「シャンソン」……だった。もちろん、クラシックは、クラシック喫茶、ジャズはジャズ喫茶……と、専門性を誇るのであって、決して交じることがないことは言をまたない。
 つまり、当時の「喫茶店」とは、チェーン店展開の「スタバ」や「マック」、「○○ドーナツ」……とは似ても似つかぬ重厚な文化の香り漂うものだった。当時の学生たちの“三種の神器"といえば、「書物とレコードと珈琲」だったのだ。
 「喫茶店文化」とはそんな中、花開いたのであり、黄金期を迎えたのであった。掲出の一学徒の悩みは、その渦中でのささやきだった。ささやかな下宿かアパートの部屋に一輪の薔薇を持ち込むか、一杯の珈琲を啜るかの贅沢二択のチョイスである。
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