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鰆の漬け焼き
神田裕行 真味只是淡
第十八回
Photo Masahiro Goda
美的感覚は嫌悪の集積であると言ったのは誰であったか? 伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』は、海外進出を夢見る青年にぜひ読んでほしい名著であると同時に、料理人を目指す者にも必読の書である。第一の理由は料理には美的感覚が不可欠だと信ずるからであり、第二の理由はその美的感覚が現在失われつつあると感ずるからだ。
 この本には若き日の伊丹十三の美学が詰まっていて、その正誤、真偽はともかく、若き日から美的感覚を養うことに人生の意義を感じているという事実に、私自身何度となく打ちのめされながらページをめくってきた。そして言わせてもらえば、これを全国の寿司職人に読ませたい。彼らにこそ日本文化の粋を感じたいからであり、粋という枠でとらえれば、日本料理の職人より上であってほしいと願うからだ。突き詰めて考えると、生の魚を扱うことそのもの自体に、美的感覚が必要なのかもしれない。美学と言い換えてもいいだろうし、つまりは衛生観念でもあるだろう。カウンター越しに見せるべきは、技のみにあらずといったところか。
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