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アイドルと酒のCM
日本酒が変わったことで酒のCMも変わった。和服姿の女性を起用したCMは今や定番だが、ここ数年は“時代の顔"ともいえるアイドルを起用したポップなCMのほうが目立つ。カジュアルな洋服で、気軽に日本酒を楽しむアイドルを出すことで、「若者の日本酒離れに歯止めをかけたい」という企業側の願いが隠されているようにも思う。
 「時代だな」と思うのは、女性が男性にお酌するシーンが減りつつあり、女性が独酌で酒を楽しんだり、『月桂冠 糖質ゼロ』では夫が妻にお酌するシーンもお目見え。そこには女性の自立、共働きの定着、ワークスタイルの多様化といった社会的背景を垣間見ることができる。かつて一世風靡した女優の故・大原麗子氏がイメージキャラクターを務めたウイスキー「RED」のCMと見比べると、時代による男女の在り方の差がよくわかる。大原麗子氏演ずる和服の女性は、夫の帰りを、そして電話をひたすら「待つ妻」。文句を言いながらも夫の世話をかいがいしくやく、言わば「男性の理想の女性像を具現化」した役である。
 男女平等雇用機会均等法が施行され早29年。女性の社会進出が目覚ましく、酒の世界でも女性杜氏が増えた今、もしこのCMを流しても、当時以上に心に刺さる人は少ないのではないだろうか。「CMは時代をうつす鏡」というが、まさにである。
 バックに流れる曲も酒銘の入った定番曲に加え、インストゥルメンタルや洋楽が多く起用されるようになった。また音楽だけでなく、飲み方の提案も時代を反映している。白鶴酒造の『白鶴 大吟醸』の商品動画では、ワイングラスで楽しむ日本酒のおいしさと、スペアリブ、チョリソ、フリカッセといった洋風料理とのペアリングを提案。グラスを傾けるのは和服の女性ではなく、外国人や洋装の女性たち。民主党時代に“國酒"として認定され、海外でのシェアが広がる日本酒の可能性を感じさせるグローバルな内容となっている。
 時代の移ろいとともに、好まれる酒が変わっていく中、今後、酒のCMは私たち飲み手をどう酔わせてくれるのか。そしてどれだけ心に残る映像と、音楽を残してくれるのか。黄金期を迎え、これから“熟成期"へと向かってゆく、日本酒の輝かしい未来がますます楽しみだ。
文・葉石かおり(はいし・かおり)
エッセイスト・酒ジャーナリスト。全国各地の酒蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。15年に「一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション」を設立。プロのためのサケ・アカデミーを開校する。主な著書に「うまい日本酒の選び方」「東北美酒らん」など。「まる得マガジン 日本酒のいろは」(NHK Eテレ)、「日経モーニングプラス」(BSジャパン)などレギュラー番組も多数。
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