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NADを上昇させるには、直接的な前駆体であるNMNを摂取することが必要。NMNはNADに変化し、細胞の活動エネルギーとなるミトコンドリアと、老化制御を行うサーチュイン遺伝子にアプローチする。NMNはブロッコリーやアボカドなどに含まれているがごくわずかなため、サプリメントなどでとるのが効率的と考えられている。
画像提供:NOMON
「そこでNMNの出番になります。NMNはビタミンB3の一種で、もともと体内で自分で作れる物質です。緑黄色野菜などにも微量ですが含まれています。しかし加齢とともに自力で作れる量が減ってしまうのが問題です。50代では20代の半分ほどになってしまいます」

 NMNは体内でNADに変化し、細胞が活動するためのエネルギーとなるミトコンドリアと、老化を制御するサーチュインの二つにアプローチする。

「マウス実験で、NMNを投与することにより、糖代謝や骨密度、目の機能など、全身の老化が抑制されたという論文がきっかけで、NMNは世界的な注目を集めるようになりました。今や世界中の大学や病院などの研究機関で、NMNのヒト試験が始まっており、糖尿病や心血管疾患といった具体的な病気に対する効果も、期待されています」

 現在、NMNのヒト試験が行われる際は1日250mgが基本的な量となっている。

「理論上、摂取量が増えればより効果が高まることが想定されますが、現在のところ副作用などの心配がないとわかっている250mgが目安になっています。将来的には、例えば病後や手術を受けた後などはもっと量を多く、健康だけどよりパフォーマンスをあげたいというときはもっと量を少なくという風に、その人その人の状態に合わせて、摂取量を変えるという使い方がされるのではないかと考えています」

 実はNMNの存在自体はもっと以前から知られており、それを老化抑制効果に着目したワシントン大学の今井眞一郎教授が論文を発表したことで、その存在が再認識され、今の研究ブームが起こっている。

「発見はされていても、何にどう使えるかわからない、あるいはすぐに何かに使えるかわからない研究というのは、すごく大事なことなのです。しかし昨今はすぐに商品化できそうなものを探すといった、即物的な研究でないと、資金集めが難しい。これでは日本の研究力はどんどん下がってしまいます」

 それを憂える山名氏は、ウェルビーイングやプロダクティブ・エイジングの実現を目指すコンソーシアム「プロダクティブ・エイジング コンソーシアム」の発起人となり、さまざまな分野の人々と連携する活動もしている。

「プロダクティブ・エイジングとは、すべての人が年齢を重ねることを前向きにとらえ、自分らしい人生を全うすること。その実現を目指して、さまざまな企業や団体、個人が力を合わせて活動しています。人脈づくりの異業種交流会とも違い、自分の仕事の宣伝などはせず、仕事の利害関係を離れて、それぞれの領域の枠を超えて協働する団体です。論文に懸賞金を出したり、スポーツ活動の支援をしたり、広い意味でプロダクティブ・エイジングにつながる人々を応援しています。意見交換会やシンポジウムなどで、非常にいい刺激を受けています。自由な空気の中で、新しい研究や取り組みが広がっていくのが楽しみです」
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