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食語の心 第25回
作家 柏井壽
 長く日本語の乱れが指摘されてきたが、その波は食の世界にもおよび始めた。
 最近よく使われる言葉に〈おもたせ〉がある。雑誌を始めとして、ちょっと気の利いた手土産のこと〈おもたせ〉と言っているようだが、これはまったくの誤用である。
 京言葉の一つである〈おもたせ〉が使われるのはこんな場面。
 京都の、とあるお宅に皆が集まって茶話会を開くことになった。そこに集う人たちは皆、それぞれに趣向を凝らした手土産を持参する。無論のこと当主も茶菓子を用意しているのだが、ときに珍しい菓子をもらうと、それを皆と食べることもある。「おもたせ(……)やけど、貴重なお菓子やさかい、一緒にいただきましょ」
 当主はそう言って、いただきものの菓子を皆に披露する。
 つまりは、手土産に頂ちょう戴だいしたものを、皆で一緒に食べるときに使うのが〈おもたせ〉という言葉。
〈おもたせ〉は、ただの手土産を指す言葉ではなく、こういう限られた場面でしか使われない。
 京都と縁が薄い東京の編集者が誤用してしまうのは、ある程度理解できるが、京都を代表する有名料亭が、自らのホームページで〈おもたせカタログ〉などと称して、手土産品を紹介しているのを見ると、なんとも情けない気持ちになる。
 ユネスコ無形文化遺産に登録された和食の総本山ともいえる京都の有名料亭ですら、この体たらくだから、他は推して知るべし。
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