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食語の心 第22回
作家 柏井壽
発酵食品、あるいは発酵調味料によって、日本の食品、料理は成り立っていると言ってもいい。
 もしも発酵という過程を知らずにいれば、今のような豊かな食生活にならなかっただろうことは疑う余地もない。
 腐敗と紙一重のところで、発酵は踏みとどまっていて、それは主に微生物と時間経過が、相まって生み出すもの。自然の摂理をうまく活用したものと言い換えることもできる。
 そう考えれば、何も声高に自慢するようなことではないのだが、どうも近頃は何かにつけて、我が我がと自慢する向きが多く、それをまた、必要以上に持ち上げるメディアが少なくないのも困った傾向である。
 関西ローカルの、あるテレビ番組で、最近人気のステーキハウスを紹介していて、その店のオーナーシェフが、熟成肉自慢をしていた。「一定の温度で、条件さえ満たせば、牛肉は旨みを増すんです」
 そこでレポーターが大げさに驚いてみせる。
「え? そうなんですか? 食材は新鮮な方が美味しいと思っていました。シェフ、すごいことを発見されましたね」
 腕を組んだシェフは、自慢気に胸を張った。
 まさしく茶番劇である。一定の期間熟成させると肉が美味しくなるというのは、昔からの常識である。
 僕が子供の頃だから、今から五十年ほども前のこと。
 お使いを頼まれて、近所の肉屋へすき焼き用の肉を買いに行った。ガラスケースの中の、どの肉を買おうか迷っていると、店の主人がアドバイスしてくれた。
「見た目は茶色いけどな、この肉は今が食べ頃なんや。こっちはきれいな赤い色をして、いかにも旨そうに見えるけど、まだ旨みが肉に回っとらん」
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