
客席から続く細いらせん階段を上った上階に厨房がある。昨年全面改装し、より精度を極めた料理が可能になった。厨房スタッフは全員日本人。数年来この店で働く料理人が多く、確固としたチームワークを築いている。
オープン直後から、佐藤氏の料理は、食材に厳しく、そして優しいものだった。食材の厳選度に関しては、星を取る前から、三つ星店に引けを取らない。今では、月並みな三つ星店よりはるかに良い食材を仕入れている。もし、理想通りの魚が入らなければ、まかないに使ったり、破棄してしまう。一匹3〜4万円するような魚であっても、だ。経営的なロスの大きさは承知している、しかし職人としての矜持が、わずかな妥協も許さないのだ。そして佐藤氏は、厳しいだけでなく、深い愛情を食材に注いでいる。この素晴らしい食材が、どうすればよりおいしくなり、よりその価値を高められるのか……?
「おいしいものを作りたいということと、何でだろう? と疑問を持つこと。この二つを考え続けています。プロの料理人なので、おいしい料理は作れる。でも、そこに自分が感じる“なぜ?"という意味を持たせないといけない。ここは、ただ単においしいものを食べる場所ではありません。“おいしい"にプラスして、パサージュ53の、佐藤伸一の味が必要なのです。単純なことなのですよ。なぜこの食材とこの食材を? と問われれば、旬が同じだから、色が同系色だから、とか……。単純ではあるのですが、載せたハーブ一枚にも、その存在意義が必要なのです」
自分の感性のままに、自由にクリエーションを行ってきたように見えた佐藤氏だったが、2年目で二つ星を取った後、軽いスランプに陥ったように見えた時期があった。それまでは、「一つ星でこの味はすごい!」という評価だったのが「二つ星なのに、こんな狭い店か。おいしいけれ
ど、二つ星だったらもっと面白い料理でもいいんじゃないか」という声が耳に入るようになったのだ。それは佐藤氏が自分自身の料理を深く見つめるきっかけになり、新たなステージに彼を導いた。
「おいしいものを作りたいということと、何でだろう? と疑問を持つこと。この二つを考え続けています。プロの料理人なので、おいしい料理は作れる。でも、そこに自分が感じる“なぜ?"という意味を持たせないといけない。ここは、ただ単においしいものを食べる場所ではありません。“おいしい"にプラスして、パサージュ53の、佐藤伸一の味が必要なのです。単純なことなのですよ。なぜこの食材とこの食材を? と問われれば、旬が同じだから、色が同系色だから、とか……。単純ではあるのですが、載せたハーブ一枚にも、その存在意義が必要なのです」
自分の感性のままに、自由にクリエーションを行ってきたように見えた佐藤氏だったが、2年目で二つ星を取った後、軽いスランプに陥ったように見えた時期があった。それまでは、「一つ星でこの味はすごい!」という評価だったのが「二つ星なのに、こんな狭い店か。おいしいけれ
ど、二つ星だったらもっと面白い料理でもいいんじゃないか」という声が耳に入るようになったのだ。それは佐藤氏が自分自身の料理を深く見つめるきっかけになり、新たなステージに彼を導いた。