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Paris
「人が死とか耐え難い苦しみ以外のことであれほど打撃をうけたのを見たことはなかった。ハドレーが原稿を紛失したことをぼくに告げたときのことだ」(『移動祝祭日』より)。原稿はパリのリヨン駅で盗まれた。
A Moveable Feast
移動祝祭日Ⅰ
Photo & Text Chiyoshi Sugawara
のちにノーベル賞作家となるアーネスト・ヘミングウェイの作家生活は、新婚の妻ハドリーとともにパリで始まった。そして最晩年に、このパリで過ごした青春時代を追想した『移動祝祭日』を書き上げ、遺作となった。最初の妻ハドリーの視点から、二人が過ごしたパリを描いたポーラ・マクレーンは、その著『ヘミングウェイの妻』でこう述べる。
――パリにまつわる最良の体験の一つは、一度遠ざかった後で再びもどってくることだ――
1926年10月、初の長編小説『日はまた昇る』を出版したばかりのアーネスト・ミラー・ヘミングウェイに届いた母グレースからの手紙には、「いかがわしい名著」という厳しい評価が記されていた。
 キューバのヘミングウェイ邸であるフィンカ・ビヒアに残されたおびただしい手紙の中に、1940年、母がヘミングウェイへ、送金へのお礼とともに送った「わが家の歴史」という200年間、5世代について述べた28ページに及ぶ母直筆の草稿があり、「これは大切に保存し、何かの役に立てるように」とつけ加えてあった。
 そこには、オペラ歌手を目指したグレースの血筋がいかに素晴らしいものかが、誇大と思えるほどに書き連ねてあった。誇り高き先祖を持つ者にふさわしい崇高な文学作品を息子に期待した母にとって、息子の書く小説の世界は耐え難いものだったからである。
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