これでハズレる確率は、今となってはほとんどゼロに近いが、かつては幾度か辛酸をなめたものだ。箸を付けるまでもなく見ただけで食欲が消え去った寿司。三口も食べたら、後はのみ込むのに難渋した蕎麦。あまりの不味さに怒りがこみ上げ、超能力もないのにスプーンの柄をねじ曲げてしまったカレーライス。
事ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかったのであって、数々の失敗を繰り返し、それを乗り越えて初めて、旨い店を探り当てることができるようになったのである。
かかる複雑なプロセスを経て、長崎で選んだのは「ボルドー」というレストラン。細道の二階にあって、瀟洒なイタリアンといった感じ。トルコライスの専門店ではないというところ、発祥と伝わっていること、そして何より見た目の美しさで、この店を選んだ。
僅か十席ばかりの小さな店。カウンターに座って、迷わずトルコライスをオーダー。当たり前だが、注文が通ってから、シェフが一つずつ丁寧に作る。その様子を間近に見ることができるカウンターがうれしい。
ガイドブックで見た通りの料理が、徐々に出来上がっていく。なるほど、こういう料理なのか。湯気が立ち上る皿が目の前に置かれて、お腹が大きな音を鳴らす。
左側にヤキメシ。右はナポリタンっぽいスパゲティ。その真ん中に、でんと載るのが薄めのカツレツ。カツにはサラリとソースが掛かっている。福神漬が添えられていて、日本の正しい洋食という姿。
カレー味のヤキメシだが、ドライカレーほどにはカレーが主張せず、スパイシーという程度におさまっている。それはスパゲティも同じ。やはり主役はカツレツなのだ。
名物に旨いものなし。それはきっと、旨い店に出会わなかったからだろうと思う。それをまさしく実感したのは、何年か後に、別の店でトルコライスを食べて感じたこと。見た目にはさほど変わらないのだが、あまりの味のクドさに、半分以上残して、店を出たほど。事程左様に店選びは大事。そんな話を次回も。
事ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかったのであって、数々の失敗を繰り返し、それを乗り越えて初めて、旨い店を探り当てることができるようになったのである。
かかる複雑なプロセスを経て、長崎で選んだのは「ボルドー」というレストラン。細道の二階にあって、瀟洒なイタリアンといった感じ。トルコライスの専門店ではないというところ、発祥と伝わっていること、そして何より見た目の美しさで、この店を選んだ。
僅か十席ばかりの小さな店。カウンターに座って、迷わずトルコライスをオーダー。当たり前だが、注文が通ってから、シェフが一つずつ丁寧に作る。その様子を間近に見ることができるカウンターがうれしい。
ガイドブックで見た通りの料理が、徐々に出来上がっていく。なるほど、こういう料理なのか。湯気が立ち上る皿が目の前に置かれて、お腹が大きな音を鳴らす。
左側にヤキメシ。右はナポリタンっぽいスパゲティ。その真ん中に、でんと載るのが薄めのカツレツ。カツにはサラリとソースが掛かっている。福神漬が添えられていて、日本の正しい洋食という姿。
カレー味のヤキメシだが、ドライカレーほどにはカレーが主張せず、スパイシーという程度におさまっている。それはスパゲティも同じ。やはり主役はカツレツなのだ。
名物に旨いものなし。それはきっと、旨い店に出会わなかったからだろうと思う。それをまさしく実感したのは、何年か後に、別の店でトルコライスを食べて感じたこと。見た目にはさほど変わらないのだが、あまりの味のクドさに、半分以上残して、店を出たほど。事程左様に店選びは大事。そんな話を次回も。

かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。