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もともとは殿様へ献上した岩国寿司
岩国で昔から食べられている寿司がある。郷土料理百選にも選ばれた岩国寿司である。
 「かつては、吉川のお殿さまに献上したお寿司として、“殿さま寿司”と呼ばれていました。この辺りでは、冠婚葬祭の時に供される郷土料理で、各家庭によって具材や味つけが少し違います。近年では、このお寿司を岩国寿司と呼んでいます。それと、もう一つの岩国の郷土料理である大平と一緒にということが多いですね。大平も祝い事には欠かせないもので、直径50㎝もある大きな平椀に20~30人分を入れて取り分けて食べていたと聞きます。『大きな平椀に入れる』ことから『大平』と呼ばれるようになったそうです。大平は、鶏肉と根菜を中心にした野菜が入った、汁気の多い煮物ですね」
 と教えてくれたのは、1869(明治2)年創業の割烹旅館「半月庵」の6代目の女将。かつては多くの家庭に岩国寿司を作る専用の桶と、大きな包丁があり、各家に伝わる作り方、味があったという。もちろん今でも、各家、各店ならではの味わいと具材を入れる。岩国寿司の定義はあまりなく、名産の岩国蓮根の酢漬けを入れて、魚介類を入れた押し寿司であること程度だ。
 そして、ここ半月庵は、岩国出身の作家、宇野千代の『おはん』や『風の音』の舞台となっている。宇野千代の生家が近くにあることもあって、よく特別室の「さくらの間」に宿泊したそうだ。また、料理好きでも知られる宇野千代は、生前、岩国寿司を郷土の味として客人に振る舞ったという。
(上)半月庵の岩国寿司は、焼き穴子をメーンにしている。米は錦町産の「あきまつり」、岩国産の有機野菜をなるべく使って、地産地消もかなえている。もちろん、岩国寿司必須の岩国蓮根のほか、錦糸玉子や桜でんぶを彩りよく配する。半月庵では4升の木枠に4段にしている。
(下)錦帯橋までまっすぐに延びる大明小路、かつては中流階級の武家屋敷街だった場所に半月庵はある。立派な白壁が続くこの辺りは、往時の趣を色濃く残す。
半月庵 山口県岩国市岩国1-17-27 TEL0827-41-0021 hangetuan.com
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