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食と土地が密接なつながりを持つのは、かかる理由からである。その地に長く暮らしてきた人々の生業、生活基盤、習慣、気性などが絡み合って、その地の食を育んできた。そしてそれがまた、その地の人の活力となり、生きる糧となるのだ。
 地産地消、身土不二、といった言葉は、その象徴。その地の食材、その地の料理は人を育む上で、最も大切な要素なのである。
 これと相反する言葉が〈お取り寄せ〉。頭に〈お〉が付き、一見すると丁寧に感じるが、その地に行かずして、食だけを運ばせようとする、横着な発想ではないか、と僕は思う。
 日本国中、津々浦々、どころか、今や世界中から、さほどの時間が掛からずに、食材や料理が届く。だが、それらは、当たり前のことだが、当地の空気や習わしまでは運んでくれない。あくまでパーツとしての食材であり、調理されたものでしかない。それらを食べて、果たして、どれほどの意味があるのだろうか。
 しかし、正直に白状すれば、僕もたまに取り寄せることがある。どうしても食べたくなって、だが、現地まで赴く時間がない。そんな時、魔が差したようにネットで注文してしまう。最近では北海道名物のジンギスカン。
 タレに漬けたラム肉を鉄板で焼いて、野菜を絡めて食べるジンギスカンは、僕の大好物である。札幌を訪れたなら、必ず一度は食べるし、これを目的にして北海道を旅することもある。半年も食べずにいると、禁断症状が出る。
 というわけで取り寄せてみたのだが、同じ店の同じ肉、同じタレなのに、何かが違う。決して不味くはないのだが、現地で食べるような感動もなく、箸が一向に進まない。
 何故かと考えて思い当たったのは、空気の違い。
 カラリと澄んだ空気の北海道で食べるから旨いのであって、ジメジメとした湿気に包まれた京都で食べても、その味わいは半減する。開拓精神を今に受け継ぐ、大らかな気性の人々に囲まれてこそのジンギスカンだと気付いた。
 土地と食の密接な関係。この話をもう少し続けることにしよう。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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