PAGE...1|2|3|4|5
獨協大学准教授 青山 愛香(あおやま・あいか)
東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了(博士)。専門は北方ルネサンスならびにドイツ美術。2011年に辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金受賞。著書に『遍歴時代のデューラー作品』(中央公論美術出版)、『黙示録の美術』(分担執筆)(竹林舎)、訳書にハインリヒ・ヴェルフリン著『アルブレヒト・デューラーの芸術』(中央公論美術出版)などがある。
もう一つ、クラーナハの独自の先進性を示すものであり、現代でも多くの人々を引きつけているのが、裸婦におけるエロチシズムだ。それまで堅苦しい宗教画一辺倒だったドイツにおいて、クラーナハの描くなまめかしい裸婦像は衝撃であった。
 「デューラーは“人体は比例だ"と言った人です。常に完璧なプロポーションを求めたため、女性のエロチックな魅力がありませんでした。対して、クラーナハの裸婦像は、胸が小さくて、脚が太い、といった、浮世絵の女性像にも通じるような、リアルな肉体を持った女性像です。だからこそ、クラーナハの裸婦像が一世を風靡(ふうび)したのでしょう」
 こちらを見つめ、誘いかける裸婦像とともに、誘惑されてはいけないという“お説教"が文字で添えられている。「そうすることで、裸婦像を公の舞台に引き出し、下品なものではない、文化的なものとして貴族たちに支持されたのです」と青山氏。社会に求められる、卓越したバランス感覚も備えた画家だといえる。
 最後に、青山氏のお気に入りのクラーナハ作品を聞くと、《泉のニンフ》のような、緑の風景の中に裸婦を描いたものだと答えてくれた。
 「ギリシャ神話モチーフの裸婦を風景の中に描くというのは、当時ドイツでは本当に斬新で、クラーナハの本質的なクリエイティビティーを最もよく表しているといわれています。その組み合わせは今見ても新しく、魅力的だと思います」
PAGE...1|2|3|4|5
LINK
CULTURE
ルカス・クラーナハの エロスとタナトス
>>2016.10.14 update
TRAVEL
Picasso et Les Maîtres ピカソと巨匠展
>>2009.1.13 update
CULTURE
知られざる画家ハンマースホイ
>>2009.1.9 update
CULTURE
20世紀最高のコレクターが愛した名画を巡る
>>2014.6.25 update
CULTURE
モネ、ルノワール、ピカソ…巨匠が描く「子ども」
>>2014.4.28 update

記事カテゴリー