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 この吉野川の中流に、徳島の最西端の村、西祖谷山村(三好市)がある。わが妻のふるさとでもあるこの地は、峻険な渓谷「大歩危」「小歩危」でも知られる四国山地の懐。
 ここに古くから伝わる料理が“蕎麦米汁"である。
 この辺りは、稲作には向かない急斜面ばかりであるため、栽培期間が短い蕎麦を、米の代わりの主食としてきた。こうした厳しい環境ゆえ、生まれた料理なのだ。
 材料は鶏肉、椎茸、大根、人参といった地産のもののみを使い、出汁は鶏から取るのみ。実に淡泊で優しい味わいのお吸い物となる。
また、この蕎麦米汁には“平家の落人伝説"も絡んでいる。昔、平家の落人がこの地に根付き、都を懐かしんで作った料理であるため、山村には珍しく上品な味わいになったと伝えられているのだ。確かに、一般的には濃い味付けを好むという山村地域には珍しく、上品な出汁の取り方をする郷土料理だと感じていた。
 蕎麦の実をゆがいて、何度もさらし、鶏肉と具材を一度、下煮をする。その後は、仕上がりに上品な一番出汁を注ぎ、これもまた徳島の名産である、すだちとちくわの輪切りを添えていただく。
 素材の中に風雅がある、“俗世の灰汁"を流すかのような味わいに、万葉の倭の食を感じることができる。そんな椀である。

元麻布「かんだ」
東京都港区元麻布3-6-34 カーム元麻布1F TEL03-5786-0150
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