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湯葉しんじょの菊花仕上げ
湯葉の味わいは不思議だ。意外や、かつお出汁ではしっくりこない。鱧の出汁を最上とし、なければスッポンのスープで炊く。どちらも湯葉の香りを損なわない程度に淡く味付ける。
椀味不只淡 第4回
文・神田裕行(元麻布「かんだ」店主)
Photo Masahiro Goda
神田裕行の椀五十選 第4回
 年に2度程京都へ出掛ける。目的は食べ歩きと器探し。八坂の裏手から清水寺を目指し、五条坂を下って一軒、一軒のぞいてみる。この辺りには、好きな作家の作品もあるが、古典を写した若手の作品も並び、時間はあっという間に過ぎていく。
 乾山や仁清の本家(本物)は、無論素晴らしいが高価な上、日常使いするには難しいところもある。そのあまりに高貴な様子が、料理を拒むきらいがあるからだ。日本料理の正統を目指してはいるが、現代の料理である上に、若輩ゆえの未熟さも手伝い、私の店には本家は似合わず、いきおい若い写し手の器を求めることが多い。これが漆器となると本家はさらに難しい。高温の汁を張るがゆえの椀内の焼けや、わずかな拭き傷がみすぼらしく見え、客向きとならないからだ。
 本家の難しいところは、質的な問題だけではない。私の店のような比較的新しい店とは“風情"が合わないのだ。古都の名料亭ならいざ知らず、カッシーナのテーブルや椅子にLEDの照明では、陰影礼賛もあったものではない。すべからず文化とは、その時代の文明を反映していると痛感する。
 九月九日は重陽の節句。
 陽(奇数)の中でも、最も大きい9が重なるという意味合い。別名を菊節句といい、八日の夜に菊の花に綿をかぶせ、夜露で湿ったその綿をしぼって(菊露)体を拭いたり、酒に混ぜて菊酒としたりして、不老長寿を願ったそうだ。
焼き茄子椀
生きた海老は、のし串を打ちさっと酒で炊く。茄子は新鮮なもの程きれいな翡翠(ひすい)色になる。美しいものは、うまいと思う。色合いは鮮度を表すものさしでもある。
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