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王宮広場の傍らという立地条件ながら、顧客対象はあくまで肩肘張らぬマドリッドっ子の庶民たち。その地の生活に立脚しているからこそ成り立つ伝統だろう。
 ヘミングウェイの出世作、『誰がために鐘は鳴る』には、頻繁に食事のシーンが登場する。瓶に入った赤葡萄酒、おかみがつくる豆煮込み、ニンニクスープ…といった具合だ。ヘミングウェイが実際に義勇軍の兵士として摂った食事も同様であったことは想像に難くない。そんな彼が、足繁く通ったというレストランが、マドリッドのヘソ、マヨール広場のそばにある「リストランテ・ボティン」だ。1725年創業という、ギネスブックにも認定された現存する世界最古のレストランだ。
 ヘミングウェイ好みのレストランだけあって、メニューはすべてカスティーリャ、マドリッドの伝統料理だ。ここの名物料理コッチニーヨ・アサド(仔豚の丸焼き)は、マドリッドの名物料理と同義だ。上階へと続く階段の踊り場が調理場への入り口になっており、そこから大きな窯で焼き上げる仔豚料理の一端を垣間見ることができる。核家族化が進む以前には、マドリッドの家庭でも同様の光景を見ることができたというが、今日ではある種のスペクタクルの趣だ。料理も同様である。ソーパ・デ・アホ(ニンニクスープ)や、生ハムを使ったコロケタ(コロッケ)等、マドリッドの家庭料理と多くの点で重複する。しかし、伝統的な家庭料理が姿を消しつつある今日のマドリッドにおいて、「リストランテ・ボティン」がおよそ300年間守り続けてきた味が、相対的に食のフォークロアとしての役割を担い始めた。マドリッド料理を伝える矜持のもとに。

Restaurante Botin
Calle de los Cuchilleros, 17
28005 Madrid
TEL+34 91 366 3026
www.botin.es
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