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同じような切り身に粉をまぶし、椀わん種だねにすると〈牡ぼ たん丹鱧〉になる。細かな切り口が、吸い地の中で牡丹のように花を開かせる。
 家庭の惣菜にもなる〈焼き鱧〉は、割かっ烹ぽうや料亭だと〈源平焼き〉として人気が高い。タレ焼きと白焼き。前者は粉山さん椒しょう、後者は山葵で味わう。
 鱧を使った箸休めに〈鱧皮と胡きゅうり瓜の酢の物〉がある。〈鰻うざく〉の鰻の代わりに焼き鱧の皮を使ったもので、通人は〈鱧ざく〉などとも呼ぶ。この料理はしかし、祗園祭中は卓に上らない。のみならず、7月に胡瓜を使うことはご法度となっている。
 祗園界かい隈わいはもちろんのこと、洛らく中ちゅうの多くがこれを守るのは、胡瓜の切り口が「八坂神社」の神紋とよく似ているからで、神の紋を食べるなど畏おそれ多いというわけだ。こういうところがいかにも京都らしい。
 話を鱧料理に戻す。かつては〈焼き鱧〉が代表選手だったが、近年は〈鱧寿司〉の人気が急上昇。
 先に書いたように〈焼き鱧〉自体は比較的安価だが、それを使った棒寿司だと、何故か高価になる。ただの焼き鱧より、一層の繊細さを求められるせいだろう。1本1万円を下ることはなく、店によっては2万円を超える。故におつかいものとして最適となる。貰もらった方は必ず喜ぶ、究極の「おもたせ」が〈鱧寿司〉。
 もう一つ。〈鱧寿司〉と人気を二分しているのが〈鱧しゃぶ〉。言うまでもなく、鱧のしゃぶしゃぶである。鱧の身を透けるほど薄く切り、鍋でさっと泳がせ、ポン酢や梅肉を付けて食べる。つまりは鍋物の一種。夏でも好んで食べられるようになったのは、ひとえにエアコンの普及による。
 盆地特有の日照りを食らう京都で、夏場に鍋物などとんでもないことだったが、今は冷房の効いた涼しい座敷で鍋を囲む。そのシチュエーションもまた贅沢なことだが、ここに別の食材が加わると、さらなる贅沢が味わえる。
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