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(上左)イチイガシに白いキノコがかなり密集している珍しい様子。(上中)生存競争の激しい照葉樹林では、巨木が低木をのみ込んで共生することもある。(上右)ボタンヅル。名は葉の様子がボタンに似ていて、つる性であることに由来。(中左)照葉樹林の代表樹・タブノキ。この巨木は樹齢350~400年だという。(中央)高さ30m、胸高幹周り3.72mのイチイガシ。樹齢350~400年の巨木だ。(中右)木に着生するカタヒバ。ほかにマメヅタ、アオガネシダも木に。(下左)ムクロジの実。黄色く熟すと皮はせっけんに、中の実は羽根つきの羽根の球に。(下中)つる性常緑のハスノハカズラは、秋にかわいらしい赤い実を付ける。(下右)この木の枝には紫の花を咲かせる小型のミヤマムギランが着生している。
照葉大吊橋から森を一望
 照葉大吊橋(teruhaooturibasi)に向かった。世界的にも貴重な照葉樹林の美しい景観を多くの人に味わってもらおうと1984年に架設、2011年にリニューアルされた、高さ142m、長さ250mのこの吊橋は、綾南川をまたいで悠然と立つ。吊橋の先に遊歩道が設けられ、自然林をぐるり散策できる仕掛けだ。単なる観光のためのモニュメントではなく「人と自然林との懸け橋」でもあるのだ。
 ここから真下を見ると足がすくむほどだが、そんな恐怖感も綾南川の両岸に広がる照葉樹林を見渡した瞬間に雲散霧消する。深い緑の美しさと優しさ、ぬくもり、静けさ、そして力強さ。照葉樹林の持つ包容力あふれる威容に圧倒された。
 「ここは林間を真上から見下ろす絶好のポイントです。ブロッコリー状の茂りが見事でしょ。シリブカガシがちょうど、茶色い地味な花をつけてますね。左手に見える茶色い木は、木に寄生するオオバヤドリギ。実は甘くて、ガムみたいに粘っこいものが残る。それでトリモチをつくるんです。あそこにあるのはリュウキュウマメガキ。実の液は柿渋になりますし、昔は和傘などに使われました。その横の野生のカキノキは、コクタンと同類の木材になります。それから木の上をはう長いつる状の枝が伸びる植物がカギカズラで、カギのある茎は漢方薬や漁網の防腐剤に使われます。山の中には家具や木工品の材料になる木はもちろんのこと、薬用や食用に使われる植物もたくさんあるんです。工芸もそう。ガラス工芸作家の黒木国昭さんは照葉樹林をテーマに『綾切子』を作ってますし、染織家の秋山眞和さんは藍染めに使うあくに照葉樹林の木灰を使っています」
 河野氏が指差す方向や木に目をやってはメモすることの繰り返し。照葉樹と人の生活文化とのつながりの一端を見た思いがする。
 その後、いくつかのポイントから森を眺めた。いわゆる「極相の森」。裸地が200~300年以上の時を経て植生の遷移が終わり、最終的に出来上がった森である。
 いつの間にか雨はやみ、青空が出てきた。しだいに明るさを増す陽光を受けた森は、木々の葉が輝き、また違った味わいがある。
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