
砦から見下ろすドゥブロブニク旧市街は中世来変わらない。甍の紅茶色が波打ちながらターコイズのアドリア海へとなだれてゆく。
悠久の都市国家 ラグーサ共和国
ローマ帝国の一支配地域であったラグシウムが、共和国という独立した政体を構築し始めるきっかけとなったのが、476年に始まる西ローマ帝国の崩壊だ。この時代、帝国崩壊の余波は民族移動という形で欧州全体におよんだが、ラグシウムも同様に、他地域から流入するローマ人たちが急増した。これを機にラテンとスラブが入り交じる文化的なポリグロットはやがて奔流となり、地域のアイデンティティを構築してゆくことになった。ラテンでもスラブでもないラグーサという独自の文化の形成が、周辺の勢力に拮抗せしめ、この地域を近代初期まで独立政体として存在させた最大要因の一つだといえる。