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こばやし・たけし
1967年愛知県生まれ。辻調理師専門学校、同技術研究所で学んだ後、職員として8年間勤務。吉祥寺「知味 竹爐山房」、「際コーポレーション」などを経て2005年、38歳の時に「御田町 桃の木」を開業。北京・上海・四川など中国料理全般に詳しいが、中でも広東料理を得意とする。2007年から6年連続『ミシュランガイド東京』で一つ星を獲得。
生の鮎を開いて、蓮の葉といっしょに蒸す。「すいません、内臓は捨てちゃいます。もったいないんですけど」と小林。
「燻製のチップは、砂糖とお米とお茶の葉。これを焦がすと、砂糖の焦げた金色の煙が薫香と一緒に魚に付いてくれます。鮎の香りと燻製臭って、すごく合うんです。あと、鮎のように背が青くて、皮目に銀色とか金色が入っていて、おなかの方がきれいな色の魚は、ものすごくよく金色が出るんです。中国の杭州辺りでは、これをイシモチとか、コイ科のウグイなんかの川魚でやります。伝統料理の一つですね」
 もっとも中国では、昔から鮎を使う料理人はいるものの、文献や雑誌などに「鮎料理」は出てこないそうだ。鮎を指す固有名詞もなく「シャンユイ(香魚)」とまとめて呼ばれるという。言ってみれば“雑魚扱い"。大陸の広い川ではなく、山間部の狭い川にすむせいか、鮎の料理は中国料理の本流から外れた地方料理とか郷土料理に分類されるらしい。
 それでも小林は「年に何度か、鮎料理を出す」という。理由は「築地で鮎を見つけると、使いたくなる」から。「ただお客さまから『中華に来ても鮎かよ』と叱られないよう、中華ならではの工夫をしている。
「今日は河岸で魚屋さんと相談して、長良川の鮎を使いました。日本料理の方のように“目利き"ではないから、何となくおいしそうだなと思った大ぶりのものを選んで。こういう料理は脂が乗っていることが一番大事なんです。その意味では初夏よりも秋口の落ち鮎、場合によっては養殖の方がいいですね」
 取材中に何度も「日本料理の塩焼きにはかなわない」と口にしたが、この杭州風の燻製もなかなかのもの。黄金色の姿態が目に、特有の香りが鼻に、ほくほくした身の淡泊な味わいが舌に、おいしい絶品である。

●御田町 桃の木
東京都港区三田2-17-29 オーロラ三田105
TEL03-5443-1309 http://www.mitamachi-momonoki.com
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