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欧州の森に関する考察
Text Shun Kambe
欧州発着の航空機を利用したことがある人間なら、眼下に黒々とした森林が広がる鳥瞰図を目にしたことがあるに違いない。そんな眺望を「豊か」と捉えるかどうかは時代によって異なるが、少なくとも19世紀に至るまで欧州における森林とは征服の対象であり、それは文明という概念に連なる行為であった。
 欧州における文明の曙は、有史以前、狩猟を主とした居住形態からの脱却で緒に就いたと考えられる。森林を切り開き農耕及び牧畜を営むことによって生産基盤を拡大し、その過程で生活集団の定住性が促進された結果、余剰生産は富という社会制度の基盤を生み出した。貧富の差の拡大はやがて都市という富の集積に帰結し現在に至る。この一連のパラダイムにおいて欧州人にとっての森林とは、文明化のために断ち切らなければならない見えざる鎖であり、神が人類に課した軛であり続けた。すなわち、森林と対峙することによって欧州の文明はそのアイデンティティーを確立し、彼らはそれを克服、征服することによってのみ人類の英知を具現化できたと言える。森林に代表される自然を絶対服従の対象として敬い畏れてきたいにしえの日本とは、文明という概念の成立過程が根本的に異なる。当然その背景にはアニミズムを基礎とする宗教観の有無が大きく作用していることは言わずもがなだ。
 欧州における「森林の征服」というアイデンティティーの根底に、一神教としてのキリスト教思想が脈打っていることに疑念の余地はない。だが欧州文明が全て自然との対峙を強いてきたとは言い難い。例えばギリシャ神話のガイアは大地の神であり、ケルト神話のケルノヌスは森の神として祀られていた。北欧神話やスラブ神話を含め欧州には自然神を信仰の対象としてきた歴史が広範囲に存在する。それらはおしなべて多神教のアニミズムであり、キリスト教が治世の機能を拡大してゆくのに伴って「邪教」として弾圧されていった。西欧では9世紀から10世紀にかけて、中欧以東のスラブ圏では13世紀ごろまでにキリスト教化がほぼ完成しており、欧州の森林が急激な縮小に向かった背景には、こうした宗教的事象も一要因として大きく作用している。
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