配偶者控除
ここまでの背景事情のもと配偶者に対する相続税額の軽減について検討しましょう。配偶者に対する相続税額の軽減とは、民法で配偶者相続人に定められている法定相続分に対応する部分について、相続税法で相続税の控除(免除/軽減)を認める制度です。例えば相続開始により被相続人に血族がおらず配偶者のみの場合、配偶者が相続した遺産全額は非課税となります。
結論的には同性婚者の一方当事者が死亡した場合、他方の当事者にこの制度が利用できる可能性は現行法制下ではないと思われます。税法の解釈実務では、税法で定義規定をしていない用語で他の法律分野で使われ既に意味内容も確立している用語を借用する場合、もともとの用語の意味内容と同様に使うべきというのが通説です(租税法律主義の法的安定性・予測可能性の担保といったりします)。「配偶者」という用語はこの例に該当し、税法には配偶者の定義がされていないため民法の配偶者定義を借用しており、同法では配偶者は婚姻した者のみに対して用いられています。これを受けて税法でも配偶者は「婚姻の届出をしたものに限る」(※)としています。
そうなると次に婚姻はどこに規定されているかということになりますが、これは憲法24条で婚姻は異性間に限ると定義されています。以上から結論的には、憲法で同性間には婚姻関係は認められない⇒民法で配偶者は婚姻にのみ生じるため、同性婚の相手方は配偶者に該当しない⇒相続税法では配偶者に限り配偶者に対する相続税額の軽減を認めているから、同性婚もしくはパートナーの相続によって生存している相手方には配偶者に対する相続税額の軽減は認められないと思われます。
同性婚等が認められる国で婚姻もしくはパートナーとなった一方当事者が、我が国相続税上の配偶者に対する相続税額の軽減を使えるかどうかについて、わが国法廷で争われた事例については知りませんが、相続税法上の解釈はわが国の法体系との整合性が問われるので、まずは民法等の改正を待つことになるでしょう。
本稿のまとめ
☑同性婚の場合には配偶者に対する相続税額の軽減は使えない
注釈(※)相続税法基本通達19の2-2

永峰 潤(ながみね・じゅん)
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
nagamine-mishima.jp
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
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