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本件米国信託の性格
 すでに説明しているが(第5回)、本件のような委託者が受託者となり、委託者が生きている間はいつでも内容を変更・撤回できる信託をRevocable Trust(撤回可能信託)と呼んでいる。米国ではWILL(遺言)で相続が行われると、裁判手続(プロベート)を経なければならず、故人の遺産が公開され相続人への遺産分配にも多大な時間がかかるため、プロベートを避けて遺言と同様の効果(Will substitute)が得られるRevocable Trustが近時は富裕層を中心に利用されている。委託者がいつでも信託目的を変更、撤回できる点がRevocable Trustの最大の特徴で、実質的には遺言と同様の効果が得られることになる。この点が、いったんTRUSTが設立されたならば、その後の委託者による信託目的の変更・撤回が一切認められないIrrevocable Trust(撤回不能信託)との大きな違いである。

 日本の教科書では信託の法的特質として「財産の所有権が委託者から受託者に移り、それは信託財産として受託者固有の財産から信託財産として分別管理されるので、委託者に対する債権者は信託財産を差し押さえできない」という説明がなされるところである(※1)。

 しかしながら、Revocable Trustの場合は委託者が信託を撤回して信託財産を自分のもとにいつでも戻せる権利を有しているので、実質的には委託者に所有権があるのと同じであり、故に信託財産は委託者の債権者による差し押さえ対象という扱いとなっている(※2)。

 つまり、米国法では信託の種類によっては、たとえ信託の法的形式に則って委託者が受託者に財産の所有権を移転していても、委託者と受託者が同一人物で依然として信託内容の変更・撤回可能な権利を有しているときは実質的な財産の所有権は依然として委託者のもとにあると判断しているのである。

 この結果、米国と日本の信託法および信託税制とに大きなひずみが生ずることとなる(次回に続く)。
本稿のまとめ
☑米国のRevocable Trustは信託の形式を取りつつも、実質的には委託者が依然として財産の実質的な所有権を保有したままであることから遺言代用手段として使われる。
☑米国のRevocable Trustの場合、委託者の債権者は信託財産を差し押さえの対象とできる。

(※1)我が国でも「委託者が信託財産からの受益の内容等をコントロールしうるような指図権、または、信託財産を受託者からいつでも取り戻しうるような撤回権を留保し、(中略)実質的にみて、信託財産は依然として委託者の支配領域内に留まっていると解すべきであるから、こうした信託に倒産隔離機能は認めるべきではないだろう」(『信託法(第4版)』新井誠、345ページ)のような学説がある。
(※2)米国統一信託法(Uniform Trust Code)第505条(a)(3)、米国第3次リステートメント。米国では法律上の手当てがなされている。
永峰 潤(ながみね・じゅん)
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
nagamine-mishima.jp
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