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個人海外投資に必要な
国際税務の基礎知識 第15回
永峰 潤 公認会計士・税理士
国をまたぐ信託の話
はじめに
 今回は信託に対する日本と米国の税金の考え方の違いについて説明したい。米国で設定した信託に対して日本で税金がかかる事態になることもあるため、あらかじめ注意が必要だ。

信託とは
 おさらいを兼ねて信託の仕組みをここで説明すると、ここで念頭に置いている信託とは個人(委託者)が保有する財産を信頼する他の者(受託者)に託し、受託者は託された財産(信託財産)の管理・運用・処分を行い、そこから生まれた利益などを委託者が指定する者(受益者)に渡す仕組みである。

信託を設定することで信託財産の所有権は委託者から受託者に移転し、受益者は、受託者に対し信託行為にのっとった信託財産の管理・運用・処分を請求することになる。財産の所有権は受託者が有し、受益者は信託財産からあがる収益(例えば有価証券の配当・譲渡益や貸付不動産の不動産所得)や信託終了時に信託財産の引き渡しを受けることになる。

 国をまたいで信託関係者が存在する以下のケースのようなご質問をかなりお受けしている。

ある家族の例
 相談はアメリカ国籍の父と日本国籍の母(故人)を持つ依頼者からである。依頼者は長らく両親と一緒に日本で暮らしていたが、10年前に母が病気で他界した後、父は米国に戻り依頼者は日本で結婚しそのまま暮らしている。

 父は帰国後、保有する米国の居宅と有価証券を信託財産とする信託を米国で設立した。この信託は父が受託者を兼ねる信託であり、有価証券からあがる収益は毎年、単独受益者たる依頼者の銀行口座(日本)に振り込まれている。父が生きている間は父の単独意思でいつでも変更や撤回が可能な信託(Revocable Trust)である。なお、依頼者は父親が死亡した際の後継受託者(Successor Trustee)に指名されている。後継受託者たる彼の仕事は、相続が起きたら信託財産を受益者たる自分に割り当てる各種手続きを行うことにある。彼は米国証券会社から自分の銀行口座に振り込まれる配当を日本で確定申告していた。
 この依頼者のもとに、ある日、日本の税務署から問い合わせの封書が来た。いわく、貴殿の所得の振込元は米国のTRUSTと書いてあるが、一度、内容について確認させてもらいたい、という趣旨であった。依頼者から、本件に関して発生した所得は全て日本で申告しているのに、何か他に申告すべきものがあるのか、と尋ねられた。

我々の見解
 本件にはいくつかの検討すべき点がある。本件の米国信託の性格、その信託に対する米国の税制の扱い、日本の信託税制の仕組み、本件米国信託に対する日本の税制の扱いである。次ページで、順次見ていくことにしたい。
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