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国際税務の基礎知識 第13回
国際税務の基礎知識 第13回
永峰 潤 公認会計士・税理士

エステートプランニングについて
はじめに
信託銀行のパンフレットなどで「エステートプランニング」という言葉を見かけたことがある方も多いのではないだろうか。その意味合いは「資産管理や相続・贈与などを含めた生前相続対策もしくは資産承継対策」くらいのイメージではないだろうか。今回はエステートプランニングという言葉の元々の出所である米国の事情について説明することにしたい。読者の中にはすでにハワイに不動産や銀行預金等をお持ちの方もおられると思うが、ご自身の相続対策としても参考にしていただければと思う。
米国の相続
米国でエステートプランニングというと、その意味は日本とほぼ同じである。この場合の一般的な方法は遺言(WILL)によるものである。相続発生件数に占める遺言を書いたことがある割合は米国では44%程度なのに対して日本では7%弱(※1)。遺言に対する最も顕著な違いは米国の場合は遺言の実行にあたって必ずプロベートを経なければならないということである(※2)。遺言なく死亡してしまった場合もプロベートは必要となる。故人の遺志を間違いなく実施するには公的な機関の介在が必要不可避であるとの考え方からだろう。
プロベート
プロベートは裁判所の関与の下に遺言の有効性(正当性)を検証する手続きをいう。具体的には以下の手順で進んでいく。
①遺言執行者(executor 遺言がある場合)もしくは遺産管理人(administrator 遺言がない場合に裁判所が選任)の任命。彼らはエステート(遺産のこと)の分配(②以下の手続)までを実行する。任命に先立ち遺言執行者は彼らがプロベートの財産を毀損した場合に備えて保証金を供託しなければならない。
②被相続人の全ての財産をもれなく探索して評価額を確定する。
③被相続人の債権者に債務を弁済する。
④相続税申告書の作成・提出と相続税の納付を行う。相続税の支払期限は死後9カ月(日本は10カ月)。
⑤以上の手続き終了後に裁判所の許可を得て残余財産を遺言に従って受益者に分配する。これらの手続きは州法が定めている。
ちなみに我が国では、遺言が発見された場合は家庭裁判所で本当に被相続人が書いた遺言かどうかを確認する検認手続が行われ(公正証書遺言の場合は、検認手続は不要)、その後に遺言の執行が行われる。相続人間で紛争がない場合は格別に裁判所が関与することはない。
我が国と比較すると、相続に係る一連の手続きに裁判所の関与が予定されているため、相続人に財産の分配がなされるまで平均16~18カ月かかり、遺言執行者や弁護士報酬は遺産総額の1.6~5.3%というデータもある(※3)。裁判所が関与するため遺産額や相続人が公表されプライバシーが保てないという点も指摘される。
(※1)Gallup Poll 2016,公益財団法人生命保険文化センター2017年。米国でも多数は遺言なしである。
(※2)州によっては遺産額や種類によって不要なところもある。
(※3)SITKOFF DUKEMINIER, Wills, Trusts, Estates(10th edition), at 48
(※2)州によっては遺産額や種類によって不要なところもある。
(※3)SITKOFF DUKEMINIER, Wills, Trusts, Estates(10th edition), at 48