

個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第12回
永峰 潤 公認会計士・税理士
出国税について
はじめに
前回は諸外国の相続税事情を説明した。客観的数字から見ると我が国の相続税が大変に高いことが一目瞭然であった。それが一つの引き金となって実際に日本から離脱するのにはかなりの覚悟が必要だが、それでも本当に離脱する人もいる。今回はそういう場合の税金の話をしよう。
シンガポール
シンガポールでは個人の株式譲渡益は非課税である。このことを利用して日本人がシンガポールに移住し、その間に保有している日本株式を売却した場合、シンガポールでも日本でも税金がかからない。ただし、その親族などを含めた保有株式が総発行株数の25%以上、かつ年間売却株数が総発行株数の5%以上である場合は、日本で課税される(※1)。そういう事情から、日本でそれなりの時価の上場株式を保有することになったため、家族ごとシンガポールに移住したうえで株式を売却してしばらくしてから日本に戻ってくる、あるいはそのまま住み続けるというライフスタイルを選んだビジネスパーソンがいる。その点は半年ごとにビザ更新に戻ってくるハワイ在住スタイルとはだいぶ意味合いが異なっている。
出国税
このように多額の含み益を有する株式を保有したまま出国してキャピタルゲイン非課税国(シンガポールや香港)で売却するスキームなどを封じるため2015年に導入された制度が国外転出時課税制度、俗にいう出国税である。ただし、この税制は①本人が出国する場合に課税、②相続や贈与で海外に居住している者が株式を譲渡された場合も被相続人や贈与者に課税、という二つの内容を有している。
制度の概要は国外転出(国内に住所および居所を有しない状況になること)する居住者(国外転出をする日前10年以内において国内に5年を超えて住所または居所を有している者)で、その転出時に1億円以上の有価証券などを保有している場合は譲渡があったものとみなし、有価証券などの含み益に対して所得税を課すというものだ(※2)。なお住民税は出国翌年の1月1日に国内に住所を有していないために課税されない。含み益には国税のみ15.315%の税率が適用される。
(※1)日本シンガポール租税条約13条。(※2)所得税法60条の2。