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ポピュラーな節税策

 相続税と贈与税の税率構造(課税価額と税率の対応)が同一であれば、前もって贈与しなくても相続税と比較した税負担額は同じになるが、異なる税率構造が採用されているため次のような節税策を取ることができる。

 例1)相続財産が4000万円の場合は相続税率20%が適用される。これに対して400万円ずつ10年間にわたり毎年贈与すると、毎年の贈与税率15%が適用され5%の節税が可能。
 例2)相続財産が6億円の場合は最高税率55%が適用される。これに対して4500万円ずつ13年強にわたり毎年贈与すると、毎年の贈与税率は50%が適用され5%の節税が可能。

 この方法は両者の税率構造の違いに着目して毎年、子供等に贈与するポピュラーな節税策として以前から知られている。贈与税の税率表では700万円で実効税率が16%となり、連年贈与する層のうち約90%は700万円以下に集中している(財務省資料p.31)。私どものクライアントでも連年贈与をされている方は結構おられる。

 財務省資料を読むと、相続税の節税策として一部富裕層の間でポピュラーなこの方法を封じる方向で検討していることが次の説明を見ても明らかである。

「諸外国では、相続と生前贈与をより一体的に捉えて課税を行うことで、資産移転の時期の選択に対する税制の中立性を確保している例が見られる。例えばアメリカでは、累積贈与額と遺産額を合わせた生涯の資産移転額に対する累進課税を行うことで、資産移転の時期の選択に中立的な税制となっている。(中略)我が国においても、こうした諸外国の例を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、格差の固定化を防止しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築する方向で、検討を進める必要がある」(※4)

この資料を読むと、資産移転の時期の選択に中立的な税制が欧米スタンダートだからわが国もそうしなければだめである、ということらしい。

 ではアメリカの遺産税(わが国の相続税に該当する)・贈与税は実際のところどうなっていて、わが国とは何が違っているのか。そもそも資産移転の時期選択の中立性とは何なのか。

 これらについては次回で説明したい。

本稿のまとめ

☑政府税制調査会で相続税・贈与税の一体化論議が開始された。
☑連年贈与することで相続税額を軽減することが可能。
☑アメリカでは生前の累積贈与額と遺産額の合計に対して累進課税を行う。

(※4)令和元年9月26日政府税制調査会(財務省資料p.36)。



永峰 潤(ながみね・じゅん)
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
nagamine-mishima.jp
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