

個人海外投資に必要な
国際税務の基礎知識
第6回
国際税務の基礎知識
第6回
永峰 潤 公認会計士・税理士
二重国籍と税法の関係
二重国籍の話
筆者は仕事柄「二重国籍」の話に遭遇することがある。例えばこんなシチュエーションだ。
自分の夫はアメリカ人で、その配偶者として志望してアメリカ国籍を取得した。その際、戸籍法上の手続きは特にしなかったので、現在、自分はアメリカと日本の二つの国籍を保有していると認識しているがその理解でよいのか。
日本の国籍法を見てみよう。
国籍法第11条
第1項 日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。
第2項 外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。
ここから分かるのは、婚姻などに伴い志望して外国籍を取得する選択をした日本人は、その時点で自動的に日本国籍を失っていることだ。すなわち日本の国籍法の規定では、原則として一人が同時に二つ以上の国籍を保有することを許容していない(※1)。しかるに、本人がこの認識を有していないことが間々あるのだ。その場合、本人
が日本国内にそのまま居住しているならば、理屈上「外国人の不法滞在」と同じことになってしまう。これは由々しき事態であるが、このことが発覚するのは相続が発生した場合などである。というのも、日常的に最も国籍を意識することになるパスポート更新の際には本人にこのような認識がなくても更新されてしまうからである。
もしも本人が日本国籍に戻りたいならば、出入国在留管理局に出向いて、事情を説明のうえ、所定の手続を踏んで日本国籍を再取得(帰化)しなければならず、非常にデリケートな対応が必要となる。
日本では、原則として二重国籍あるいは多国籍は認められていないが、世界に目を転ずると実は多くの国、とりわけ欧米諸国では二重国籍が認められている事実に驚くことになる。
例えば米国大使館WEBには以下のようにある。
「 米国の最高裁判所は、二重国籍を“法律上認められている資格"であり、“二カ国での国民の権利を得、責任を負うことになる"と述べています。一国の市民権を主張することで他方の国の権利を放棄したことにはなりません。
米国法は、出生により二重国籍を取得したアメリカ人や、子供の時に第二の国籍を取得したアメリカ人に対して、成人したらどちらかの国籍を選択しなければならないという特別な決まりを設けていません」
国籍の考え方
出生した子供の国籍取得には血統主義と(出)生地主義がある。前者は親が自国民ならば子供も自国民とするもの(※2)、後者は自国領土内で出生した子供は両親の国籍にかかわらず自国民とするものである。ヨーロッパ諸国は伝統的に血統主義を採用し、南北アメリカ大陸諸国は(出)生地主義を採用してきたが、近年はヨーロッパでも(出)生地主義を例外として認める国がある。