
永峰 潤(ながみね・じゅん)
東京大学文学部西洋史学科卒。ウォートン・スクールMBA、等松・青木監査法人、バンカーズ・トラスト銀行を経て、現在永峰・三島コンサルティング代表パートナー。nagamine-mishima.jp
(※1)英米法の諸国では、国が定めた相続制度とは別の形で、世代を超えた家族間の財産移転を行うための信託が主流として行われている。これをわが国では民事信託と呼ぶ(樋口範雄著『入門 信託と信託法』54ページ参照)。(※2)英米法では受託者の所有権をコモン・ロー上の所有権、受益者の持つ所有権をエクイティ上の所有権と呼んで区別する。沿革上、受益権は信託財産自体に対する物権的な権利を認めていた。これに対して大陸法を輸入したわが国では、信託財産の所有権は受託者のみが保有(所有権は一つ)しており、受益権は受託者に対する債権的な権利であると解されている(前出38-39ページから内容を要約)。(※3)旧信託法では、委託者の債権者詐害目的で濫用されることを恐れて自己信託は認められなかったが、詐害目的があれば、例えば委託者が受託者と共謀して財産を信託財産にすれば委託者の差し押さえは防げることから、改正信託法では自己信託がみとめられた(信託法3条3項)。
東京大学文学部西洋史学科卒。ウォートン・スクールMBA、等松・青木監査法人、バンカーズ・トラスト銀行を経て、現在永峰・三島コンサルティング代表パートナー。nagamine-mishima.jp
(※1)英米法の諸国では、国が定めた相続制度とは別の形で、世代を超えた家族間の財産移転を行うための信託が主流として行われている。これをわが国では民事信託と呼ぶ(樋口範雄著『入門 信託と信託法』54ページ参照)。(※2)英米法では受託者の所有権をコモン・ロー上の所有権、受益者の持つ所有権をエクイティ上の所有権と呼んで区別する。沿革上、受益権は信託財産自体に対する物権的な権利を認めていた。これに対して大陸法を輸入したわが国では、信託財産の所有権は受託者のみが保有(所有権は一つ)しており、受益権は受託者に対する債権的な権利であると解されている(前出38-39ページから内容を要約)。(※3)旧信託法では、委託者の債権者詐害目的で濫用されることを恐れて自己信託は認められなかったが、詐害目的があれば、例えば委託者が受託者と共謀して財産を信託財産にすれば委託者の差し押さえは防げることから、改正信託法では自己信託がみとめられた(信託法3条3項)。
アメリカの信託
まずは撤回可能信託(Revocable Trust)。この信託は委託者Sが自分の財産の一部について自分が生きている間は自らを受託者Tとすると宣言し、自分が生きている間は財産からあがる収益は自分のものとし、自分が死んだときに財産は自分の子供Bに引き渡すものとする。この信託はいつでもやめることができ(撤回権付与)、子供Bはこの財産についてプロベートの手続きを受けることがない。前回のコラムで指摘したように、プロベートにはかなりの時間と費用を要し、かつ、裁判所が関与し全てが公開されるのでプライバシーが保てなくなるため、この信託はプロベートを回避できない遺言制度の代替(Will Alternative)として米国では頻繁に用いられる。この信託を日本で利用可能か考えた場合、そもそも信託法上、受託者が受益権の全部を1年を超えて有することはみとめられないので(信託法163条2項)、そのままこのスキームを使うことはできず、さらに日本では相続財産の分配で必ず裁判所に行く必要はなく、よってプライバシーの問題も生じないので、利用価値はあまりないかもしれない。
もう一つは遺言による夫婦信託(Marital Trust)。遺言を起因とする信託のためプロベートを避けることも(委託者が死んでいるので)撤回もできないが、この信託には後述する遺産税のメリットがある。委託者SはXを受託者として、Sの配偶者Wが生きている間は信託財産からあがる収益をWに渡す。Wが亡くなった際にXは財産をSの子供Bに引き渡して信託を終了する。BがSの前婚の子供である場合、この仕組みはWとBが直接対たい峙じ する場面を回避できるメリットと、税法上もSの死亡時に配偶者控除が認められWが死亡するまで遺産税が先送りされるメリットがある。
これと同じような信託に日本では受益者連続型信託というものがあるが、米国のような委託者死亡時に配偶者に対する相続税の繰り延べ効果は認められない。概して日本の税法は英米で認められているような課税上のメリットが希薄なため、今後、日本で信託がより一般的になるには、英米に比べて硬直的な税制が変わらない限り難しいように思える。
本稿のまとめ
☑信託は13世紀の英国を起源として発達した法制度である。
☑財産が委託者から切り離されるため倒産時に差し押さえの対象外となる。
☑受託者の目的はただ一つ、受益者の利益を図ることにある。
☑英米で信託が盛んに用いられる理由には税金のメリットが大きいが、日本の信託税制はそれに比べると硬直的である。