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個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識
第5回

永峰 潤 公認会計士・税理士
英米で遺言に代えて信託が盛んな理由

はじめに
 前回のコラムでは、米国でプロベート回避の方法として使われている銀行預金(Payable-On-Death=POD)、証券口座(Transfer-On-Death=TOD)、不動産の登記(Joint Tenancy)を説明した。今回はこれらに劣らず用いられている信託(Trust)について説明しよう。 

信託とは何か
 信託という言葉を聞くと貸付信託・金銭信託や、相続対策として用いられる土地信託を思い浮かべる方もいると思う。以上の受託業務を行う特殊な銀行として信託銀行があることも知られているところだ。これらの信託は、財産を託する相手先(受託者)が金融機関(ここでは信託銀行)などのため「商事信託」と呼ばれている。これに対して英国や米国で信託(TRUST)という場合、これら以外にも一般人(自然人)だけで完結する、日本では「民事信託」と呼ばれるものがむしろ一般的である(※1)。信託発祥の国である英国や米国では商事信託と民事信託という区別はとくになく、全て信託という同じストラクチャーで論じられており、民事・商事に分けるのはわが国固有の事情による。
 信託の仕組みを簡単に言うと(商事信託でも民事信託でも原則は同じ)、ある目的をもって財産を託する人を委託者、託された財産を信託財産、託された人を受託者、そして受託者が信託財産を管理・運用や処分した成果を受け取る人を受益者と言い、成果を受け取る権利を受益権(※2)と言う。
 信託の重要な特徴として、信託財産とされることで所有権は受託者に移転するが、受託者は、委託者が設定した信託目的(信託財産を運用し受益者に収益をどのように配分するかを指図すること)に沿って受託者個人の固有財産と分別して管理し、受益者のために忠実に信託事務の処理をしなければならない、別の言い方をするならば、受託者は受益者以外の利益を図ってはならないのだ。
 もう一つの特徴として、信託財産は委託者の財産から切り離されるため、委託者が倒産しても、委託者の債権者は差し押さえできないし、受託者が倒産しても受託者の所有権は信託財産として固有財産と分けられるため、受託者の債権者は差し押さえできない。受益者の債権者もやはり信託財産を差し押さえることは不可能である。このように信託財産とすることで、当事者の誰かが倒産しても信託財産への影響を排除できる(倒産隔離と呼ぶ)。そうなると、委託者は受託者に信託財産を託した時点で自分の支配は及ばなくなるわけだが、これは委託者=受託者とする信託(自己信託と言う)を宣言することで、受託者として実質支配を続けることが可能である(※3)。以下にアメリカの信託を紹介する。
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