PAGE...1|2
永峰 潤(ながみね・じゅん)
東京大学文学部西洋史学科卒。ウォートン・スクールMBA、等松・青木監査法人、バンカーズ・トラスト銀行を経て、現在永峰・三島コンサルティング代表パートナー。nagamine-mishima.jp

(※1)米国では州ごとにドミサイル(生活の本拠があり永住の意思がある場所)がどこにあるかによって決せられる。(※2)米国税務では、エステート(Estate)とは個人が亡くなった際に必ず設立される独立の法的主体で、被相続人の財産や債務等一切が移転される。日本語で直訳すると「遺産財団」となるが、我が国にはプロベート手続の中心となるこのような法的主体はないため、敢えてエステートのままとした。(※3)プロベート開始から終了までには数カ月から数年かかり、弁護士報酬なども数万ドルかかる場合がある。(※4)基礎控除は6万ドルであるが、代替的に日米租税条約により1140万ドルの米国人に適用される基礎控除額のうち米国遺産対応分を用いることが可能。

国際管轄
 相続の手続きについては、ヨーロッパ大陸法系と英米法系の手続きに分類される(日本は大陸法)。大陸法系では多くの場合、財産の種類、すなわち不動産か動産かに関わらず被相続人の本国法や居住地法を適用して相続手続きを進めることが多く、英米法系では不動産はその所在地の相続法で、動産は被相続人の本国法や居住地法を適用することが多い。本件の場合、遺言書なしの相続であり、被相続人の居住地(※1)は日本にあるので、ハワイ州の不動産にはハワイ州の相続法が適用され、銀行預金については日本の相続法が適用される。ハワイ州の相続法では不動産は配偶者が全て相続することになる。これに対して銀行預金は日本の相続法が適用されるので、遺産分割協議によって配偶者と子供の取り分が決せられる。
 しかしながら米国で相続財産を相続するためには、たとえ上のような分配に落ち着くとしても、原則として裁判所の監督下で被相続人のエステート(※2)を確定・清算したうえでプラス財産があれば相続人に分配される。このように被相続人のエステートを裁判所関与のもとで厳格に管理・清算するシステムをプロベートと呼ぶ。実際の清算手続きは遺言執行者(executor)もしくは裁判所が選定した遺産管理人(administrator)が実行する(これらをまとめてpersonalrepresentativeという)。かたや日本では相続人が被相続人の権利・義務を包括的に承継し、通常、裁判所の関与は必要としない。
 裁判所が関与することからわかるように、プロベートは時間とコストがかかるため、アメリカ人の間でもプロベートを回避するため各種の法的手段が用意されている(※3)。

税金の計算
 以上の相続手続きと並行して税金(遺産税=estate tax)の計算が必要になる。本件は納税者となる被相続人が米国非居住者なので、米国内の遺産のみが米国遺産税の対象となる。非居住者に対する基礎控除(※4)を差し引いた後、累進課税18%~40%の税率で課税される。遺産税はpersonal representativeが相続から9カ月以内に支払わなければならない。

宿題
 と、ここまでが米国の手続き概要であるが、次なる課題として、日本の相続、税金申告とはどう関係するのかの問題がある。また、プロベートを避ける方法にはどのようなものがあるかも知りたいところである。
 これらは次号で取り上げたい。

PAGE...1|2
LINK
STYLE
海外資産の相続を迎え撃つ 永峰・三島会計事務所
>>2016.8.29 update
STYLE
個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第13回
>>2021.6.28 update
STYLE
個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第4回
>>2020.4.28 update
STYLE
個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第8回
>>2020.12.24 update
STYLE
個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第19回
>>2022.1.20 update

記事カテゴリー