家畜であった「羊」は神へのいけにえとなる
羊はすでに飼いならされた動物であったため、単に衣食住に役立てるのみならず、人間の都合により別の役割を与えられることとなる。それは、神への犠牲と神の意志を伝えるという役割である。
神へのいけにえとなるものは、まずは羊・牛・豚・犬などの動物であった。いけにえの羊は健康で欠陥のないものでなければならない。立った羊の全形を表したものが「美」(※3)である。外形だけではなく、その肉・内臓・骨すべてが完全なものでなければならず、それを確認し、神へも見せるためにのこぎりで解体した。その様子を表したもの(※4)が、「義」にあたる。そこから「ただしい」という意味が生まれたのだ。また、羊をのこぎりで解体し脚の垂れた様子が「羲」であり、それに牛を加えたのが「犧→犠」。いけにえのことを「犠牲」ともいうことがうなずける。
神への犠牲と供されたものは、時には人間であることもあり、捕えられて奴隷となった異民族がその対象となった。中国の西北部(殷から見れば西方)に住んでいた、牧羊をする羌きょうなどがまさに犠牲となった。占い文にも「羌三十人伐ころさんか」「祖そ 乙いつ(王の名)に羌十五人を侑すすめ羊を卯ころし一牛を侑めんか」などの言葉が残っており、殷墓に残る数千におよぶ断首葬は、羌人の犠牲のあとであると考えられている。